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MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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金融危機
アメリカの金融危機がいよいよ深刻になってきた。MITには政策機関に関わっている教授も多く、さすがに話題となることが多い(バーナンキFRB総裁もMIT卒)。ファイナンスで「リスクにはシステマティックリスクと、ノン・システマティックリスクとがある。ポートフォリオを使うと、ノン・システマティックリスクは分散できるが、システマティックリスクは回避できない」と習う。まさに今はシステマティック・リスクが主に表れている。

スローンの前学長で金融の規制当局にいたこともあるシュマレンジー教授は、「もうこの危機について触れずに授業をできない」と言い、授業の冒頭にて、十年単位だった過去の不況よりも、今回の危機は短いのではないか、またさらなる規制は必要だが、既存の規制を強化するよりも、規制の範囲を広げること(市場の透明性の確保など)が必要だろう、という彼の見解を示していた。

また、自らヘッジファンドを経営し、またかつて驚異の裁定取引手法を編み出していたAndrew Lo教授を初めとするスローンのファイナンス教授陣や不動産学科の教授による、金融危機についてのパネルディスカッションも行われた。

90年代後半から始まった「持ち家政策」による低金利のローンと、レバレッジの増大 (頭金の割合の低下) により、需要が喚起され、不動産価格はかつてないほどに高騰した*1。だが2004年に金利が上がると、その影響で2006年に不動産市場がピークを迎え下降に転じてしまう。損失は証券化・高レバレッジ・低流動性によって拡大し、"death spiral" を下り、今回の救済措置となった。

どこまで不動産価格が下がるかだが、不動産学部の教授によれば、長期的(100年以上のデータ)な平均実質価格(その価格で安定していた期間も長い)に戻るまでには、ピーク時の価格から45%も下がってしまう。だがそこで下げ止まるかどうかは分からず、デススパイラルが加速した場合、さらに価格が下がることもありうるという。

また複雑な証券化によって、資産の価値やリスクが見積もれなくなってしまっていた。証券化がいかに被害を拡大したかの説明はKazさんのブログが分かり易い。証券は平均200の別の証券化した不動産ローンから組成されているので、その200の証券それぞれが、どのくらいキャッシュを配分し、どれくらい担保を持っているか(そしてその担保がまた別の証券となっている)を追跡せねばならず、事実上価値を見積もることが不可能だ。そのためバランスシートも実質価値を反映できていない(それが時価会計の見直し論に繋がっている)。

元IMFチーフエコノミストのSimon Johnson教授は、金融危機に陥った国を多く見てきた経験から、今回の金融危機を冷徹に分析していた。やはり救済案が議会で否決されたこと(リーマンを潰してまで、ウォールストリートに対する国民の溜飲を下げようとしたにもかかわらず)が機を逸したとまず述べた上で、今回の危機は「自信に対する危機」だと位置づけた。彼は一般国民にも状況が理解できるよう、ブログを作っている。そこでの政策提言は
  • 資本の注入
  • 金利引き下げ
  • 流動性の確保
  • 財政支出
  • 不動産価値下落の吸収

が主なものである。さらに米国だけでなく、国際的な枠組みが必要だという。だがこれらを全て行うと、アメリカの財政はさらに苦しくなるだろう。

バブル期に手痛い経験をした日本は、世界的な金融危機を乗り切ることができるのだろうか。今後が心配でもある。

* 頭金が5%だけで、95%を借り入れた場合(レバレッジ20倍)、不動産価格が5%下がっただけで正味の資産価値は吹き飛んでしまう
by flauto_sloan | 2008-10-02 12:48 | MITでの学び(MBA)
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