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MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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楽三夜(1/3) ドホナーニ/BSO
ようやく中間試験が終わり、開放感に包まれながら3日連続のコンサートに行ってきます。ボストン交響楽団、ロンドン交響楽団、ニューヨーク・フィルハーモニックと毎日違うオーケストラながら、なぜか毎日ベートーヴェンのピアノ協奏曲が演目に入っています。

今日はさっそくBoston Symphonyの演奏会に行ってきました。
指揮者は巨匠ドホナーニで、中プロがベートーベンのピアノ協奏曲第3番、メインが交響曲第5番『運命』という、なかなか練られたプログラムです。ドホナーニは来週NY Philharmonicで同じく運命を振るそうで、さてどんな新解釈があるものかと期待して聴きに行きました。

職人か巨匠か
演奏は期待を裏切らないどころか、それ以上の名演でした。ドホナーニを生で聴くのは初めてなのですが、この老大家は熱い情熱をクールに隠しつつ、緻密なアーティキュレーションと気宇壮大な響きを創り出し、そう、例えて言うならば躍動感のあるクレンペラー(?)といもいえるような存在感がありました。

老練なことに、協奏曲では即興性に溢れる天才肌のピアニスト(彼も素晴らしかった!!)を自由に弾かせておいて、自身は一歩引いてしっかりとオケをまとめることで、全体の構成を明らかにし、安定感を生んでいました。そこで「あれ、かなり職人気質な指揮者だな」と思ってしまいました。が、見事にだまされていました。

運命に入ると、息の詰まるような緊迫感に包まれ、激しくうねる強弱、鋭いアクセントとたゆたうようなレガートのコントラスト、内声を重視した厚みのある響き… まさに巨匠の芸術です。
冒頭の動機、いわゆる「ジャジャジャジャーン」は、全くフェルマータをかけず(つまり2分音符を拍通りに)に、一気呵成に進んでいきます。このスピード感には面食らいました。

そして3楽章では一糸乱れぬ象のダンスを経て、4楽章へと続く長い長いフレーズに。ここは胸を締め付けられるような、熱情が凝縮されたピアニッシモで始まり、それがいつまでたっても少しもクレッシェンドしません。出口のない熱情は音にますます緊迫感を与えて行き、最後の2小節で一気に開放されると- 聴衆を巻き込んだ歓喜が生まれました。

苦悩が歓喜へと昇華されるとき
この歓喜の主題は、苦悩の始まりの裏返しでした。ピアノ協奏曲第3番(ハ単調)の1楽章の第1主題(ドミソファミレド)を、印象深いクレッシェンドを伴うマルカートで演奏しておいて、運命(同じくハ単調)の4楽章で、それが長調に転じたような主題(ドミソファミレドレド)を、今度はフォルテシモで力強く弾くことで、苦悩と歓喜との見事な対比が鮮やかに表れました。
歓喜の宴の終わりを惜しむかのような長いコーダが終わると、大興奮の聴衆が直ちに総立ちに。文句なしの名演でした。

明日はNYへ移動します。世界の一流のオーケストラが次々と聴けるこの2年間で、耳もすっかり肥えそうです(肥えるのは耳と舌だけにしたいですが)。なんという贅沢。
by flauto_sloan | 2007-10-18 23:26 | 音楽・芸術
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