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MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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スコルニコフ教授 – 科学技術と政治
先日の日本人研究者交流会での山本教授の発表でも名前が挙がった、MITのスコルニコフ教授が「科学技術と政治が出会うとき」と題して特別講演を行った。スコルニコフ教授はアイゼンハワー大統領、ケネディ大統領、カーター大統領の3政権でホワイトハウスのアドバイザーを務めた。まさに原子爆弾、アポロ計画といった科学技術と政治の関わりを間近に見てきた人物だ。

1時間の短い講演だったので駆け足ではあったが、山本教授の講演と合わせて、科学技術政策を考えるいい機会であった。以下要旨。
  • 社会が変われば、科学技術の役割も変わっていく。「技術力を持つとは、どういう意味なのか」というシンプルな問の意味するところは、社会のかたちと共に変わりゆく。国民国家という国の形はいまだ健在なものの、国際的組織の興隆とともに時代遅れになりつつある。今後は科学技術に対する、国際的な枠組みが一層必要となる。
  • 今や国際問題は科学技術の理解なしに取り扱うことはできない。だが、科学技術それ自体が政治を決めていくことはない。核兵器でさえも、政治が核をどう扱うかを決めたのであり、核兵器が政治のあり方を定めたわけではない。
  • 科学技術と政治の関わりでは、安全保障問題が3つの分野で重要な問題である。まずは諜報分野であり、次にレーガン政権のスターウォーズ計画のような宇宙技術の分野であり、そしてサイバー戦争といったIT分野である。
    • 宇宙技術は、技術と政治が絡み合う最たるものである。有人宇宙飛行をめぐる争いでソ連がアメリカに勝ったとき、アメリカは国家教育法を1957年に制定して、科学技術教育に力を入れた。そして政府が支援する宇宙計画、アポロ計画がNASAで立ち上がった。だがここで政治は対立から協調へと転じ、1962年にケネディ大統領*1は国連とソ連に対して共同研究の提案をした。
    • ITに関しては、防衛上極めて重要な課題となっている。科学技術の性質として、巨大なシステムを発展させていくことがあり、それがテロの危険を生む。Webやグリッド・コンピューティングは巨大なシステムを作っていったが、それは悪意を持ったちょっとした行動で、大きな結果をもたらすことができてしまう*2
  • 安全保障以外の分野でも、経済についてチャールズ・ベストが「イノベーションがマントラ」となっていると言ったように、科学技術がますます重要になるとともに、競争や課題が国際的になっている。
    • 現在では、気候変動が国際政治の重要なテーマである。懐疑論がいまだ根強いだけでなく、国際的協調がないと解決できない問題だ。中国からの汚染物質は中国だけの問題ではない。エネルギー問題も石油依存からの脱却を図って研究が進むが、科学技術の進歩をどこまで実現するのかは政治的問題をはらむ。
    • 食料・農業分野では、遺伝子組み換え技術の現場への導入が遅れている。科学技術を完全に安全だと証明することはできない。利用可能な技術をどこまで取り入れるのかは、技術ではなく政治が決めるのだ。
  • 国際的な枠組みを考えたとき、最先端の科学技術の管理は大きな問題となる。現在は過剰反応をとっており、技術それ自体に悪影響が出ている分野もある。
    • MITなどアメリカの科学技術教育の現場では、アメリカの学生よりも留学生が増えている。これは重要な情報をどう管理するのか、科学技術の職業にどこまで留学生を受け入れるかという問題をはらみ、特に9.11以降はテロリストに技術を与えないことが重要な課題となっている。
    • 軍事・民事問わずあらゆる技術は漏洩されうるため、重要な技術への制限は必要なのだが、今は過剰対応となっている。アメリカ人以外が出席できない職業や会議が増えたため、商業用衛星産業のように壊滅的な打撃を受けた分野すらある。技術自体を破壊してしまっては元も子もない。
MITの航空宇宙の友人が、「宇宙という夢を追って技術に専念したくても、この世界は必ず途中で政治が顔を出してくる」と嘆いていたように、アメリカ型スピンオフの構造では特に、基礎研究から政治が非常に強く絡んでくる。日本のようなスピンオン構造だと意識することは少ないが、山本教授の講演だと、実際は色々とあるようだ。

国際的な枠組みで科学技術を取り扱うのは、国民国家を維持し続ける限り、相当に難しそうだ。インターネットの敷衍によって、国家を超えて経済や政治活動が繋がっていくと、ひょっとしたら国家のありかたが変わっていくのかもしれないが、まだその閾値には達していなさそうだ。

しかも「技術それ自体が政治を定めていくことはない」のだとしたら、インターネット(或いはほかの技術)で社会が変わっていくとしても、そのペースや範囲を定めるのも、ある日各国元首が「国民国家というかたちを捨て、世界国家を作ります」と宣言するのも、政治である。

それは正しいと思うのだが、ひょっとしたら次に起こるのは、リアルな世界がバーチャルな世界に従属して、バーチャルな世界を最適化するという社会的・経済的要請が異常に高まっての、政治革命かもしれない。その時は、技術が政治を定めることになるのかもしれない。そんな世界が安定的に存在できるのか疑問だが。

*1 教授の評では、ケネディ大統領は非常に好奇心旺盛だったという
*2 コンピューター・ウィルスや安全保障関連のシステムへの侵入など、様々なレベルでのサイバー戦争が考えられる

by flauto_sloan | 2009-04-08 06:15 | Guest Speakers
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