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MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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Israel Trek (4/9) - イスラエルの経済と起業家精神
ビジネススクールの旅行なので、イスラエルの経済・ビジネスも当然学ぶ。ペレス大統領という行政の長に会った後、金融の長であるイスラエル銀行(中央銀行)のフィッシャー総裁に会った。また、テルアビブやその近くのハイファはハイテクや軍事産業のクラスターであり、起業家精神に溢れた街は刺激的だった。
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イスラエル銀行総裁、フィッシャー教授
スタンレー・フィッシャー総裁は、MIT経済学部の元教授であり、我々を温かく歓迎してくれた。話の内容は、経済危機がどのようにイスラエル経済に影響を及ぼしているのかについてだった。
豊富なデータで丁寧に説明するところが、教授然としている。
イスラエルの経済は経済危機の中でも、比較的よい状況にあるが、保守的な金融政策をとっている余裕はない。GDPの成長率は2004年から2007年まで5%であり、2009年は-1.5%だと見込んでいる。これはGDPの45%を占める輸出が8%落ち込んだことが大きい。輸出産業は主に製薬、エレクトロニクス、防衛といったハイテク産業である。

ハイテクに牽引されるイスラエル経済だが、弱みは所得の不均衡と財政規律だ。ユダヤ人の10%、アラブ人の23%、その他人種の40%が貧困層にいる。貧富の差は開く一方で、様々な問題を引き起こしている。また、2007年にはゼロだった財政赤字は、2009年にGDP比5.2%と急激に悪化している。国の債務もGDP比83.5%であり、不安材料である。

イスラエル銀行としては非常事態として積極的な金融政策を展開し、為替介入のほかにも、金利引き下げ、国債の二次市場からの買い取り、流動性拡大のための様々な施策を行っている。金融機関は複雑な住宅ローンに手を出しておらず、また株価は下がってもキャッシュを持っているため、救済措置はとっていない。だが不良債権を整理し、中小企業への貸付を担保するための政府保証は必要である。
イスラエルと日本とは、規模こそ違えど産業構造が比較的似ている。国土が狭く資源を持たず、人的資本を強くしてハイテクの拠点となり、輸出に頼っている。そのため今回のように世界的に需要が減退すると、輸出減少がGDPに直に効いてくる。日本では内需を拡大せよという意見が多いが、イスラエルは人口が少ないからなかなかそうもいかない。

ようやく成長が軌道に乗ってきた矢先での金融危機を、イスラエルが今後どうやって乗り越えていくのか。ハイテククラスターとして拡大していくのか、貧困対策や消費喚起で需要の底上げをしていくのか。日本が学べるものも多く、興味深い。


ハイテク・ベンチャー
Israel Trek (4/9) - イスラエルの経済と起業家精神_c0131701_23323169.jpgテルアビブでMITスローンのアラムナイ・パーティーが行われ、USBメモリを開発したイスラエル企業のCEOが講演を行った。
他にもスローンのアラムナイでスタートアップを起こした人が多く来ていた。彼らは多くがシリアルアントレプレナーであり、常に前進し続けている。
スローンにいるイスラエル人の友人も、みなチャンスとアイディアさえあれば起業しようとする。

この起業家精神はどこから来るのだろうか。

イスラエルにはGoogleやMicrosoftなど、世界的なハイテク企業の研究開発拠点が置かれており、優秀な人材が集まる。新しい技術を使いたいハイテク企業が多いから、需要も常にあるし、補完しあうような技術も容易に見つかる。まさにテルアビブ周辺はハイテクのクラスターとなっている。この熱気がアントレプレナーを生み、その成功が熱気を生む好循環なのだろう。

あるシリアルアントレプレナーのスローンOBに、あなたは起業を通じて何を学んだのか、と聞いてみた。少し考えて、信頼がおける優秀なチームを作ることの大切さと、失敗したところで家族さえいればどうということがない、と開き直ることだと答えた。後者は日本の環境だとやや異なるが、共に前進する仲間がいるという勇気と、撤退する恐れのなさが、前向きな人間を作るのかもしれない。


防衛ベンチャー
テルアビブ郊外のハイファにある防衛システム起業、エルビットを訪れた。ここは軍事・防衛のオペレーションを効果的に行うためのシステムを開発している企業で、イスラエルやアメリカは勿論、多くの国軍を顧客としている。

戦争が情報戦とテロ・ゲリラ戦が中心になり、分散化していることから、エルビットは小隊の行動を的確に把握して戦況を分析するシステムや、無人偵察機・爆撃機の開発などを行っている。特に無人偵察機・爆撃機は最近の軍事分野における大きなイノベーションで、岩山や複雑な地形でも、機動性高くかつ被害を最小に留めて索敵ができる。小型のものだと、紙飛行機のように片手で投げて離陸させるほどだ。『破壊的技術』の授業でも、ノルウェー軍からの生徒が防衛分野のイノベーションとして取り上げていた。

アメリカが軍事費を増大させ、中国も軍備拡大を続けている。嬉しい話ではないが、軍事産業は市場規模を拡大している有望市場だ。だが軍事技術は山本先生のいうcritical technologyの最たるものであり、イスラエルとしてもエルビットの活動にはかなり制約をかけているだろう。最先端の軍事技術へのアクセスはきわめて重要になっていく。日本も国産ステルス戦闘機の開発を行い、アメリカ依存からの脱却を行おうとしている。

山本先生は、軍事技術と民生技術の関係を、アメリカ型スピンオフと日本型スピンオンに大別した。イスラエル型は、ハイテククラスターの中で軍事アプリケーションが直接生まれる、中間態のように思えた。スピンインとでも言うのだろうか。そしてこの軍事イノベーションへのアクセスによって、世界の対立軸が決まっていくかもしれないと思った。


農業ベンチャー
イスラエルは、実は農業輸出国である。といってもアメリカのように、メジャーが大量の穀物を売りさばくのではない。農業技術を革新し続け、その技術を輸出している。

イスラエルはもともと砂漠であり、農業には適していない土地であった。だが灌漑、温室、品種改良といった技術を開発し、砂漠を緑化して高収率を達成している。食料自給率は90%以上だという。さらに、砂漠で農業をする技術をアフリカなどの砂漠国に輸出し、食糧問題解決に貢献しているという。

この技術開発に貢献しているのが、ガイドのシャナイも生まれたキブツという共同体だ(実際に訪れた莉恵さんのブログも参照)。共同社会として農業や技術を重視するキブツから生まれた農業イノベーションも多いという。旅の途中でもキブツを多く見かけたが、どこも鉄条網で村を囲み、共同体としての結びつきと、隣人との没交渉を強めていた。

ゴラン高原で、ロシアから1週間前に移住してきたというロシア人に出会った。彼はキブツの思想に共鳴し、近くのキブツに住んでいるという。若い頭脳と労働力が次々と訪れ、閉鎖性と開放性とが共存するキブツは、ただ閉鎖的な日本のムラと似ているようで似ていない。世界中にディアスポラを作らざるを得なかったユダヤ人たちは、今その不遇を刈り取る時期に来ているのだろうか。
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イスラエルの現在の印象は、一言でいうと巨大で創造的な産業クラスターの複合体だ。そこにはITがあり、軍事があり、農業がある。この三本柱は、地政学・地形学的必要に迫られて始まったものの、ハイテクを横通しに発展した今は、国力と活力の源となっている。

近隣諸国との関係、所得格差や、教育水準の漸減といった問題もあるが、建国から60年でここまでの存在感を築き上げたのはまさに奇跡的だ。国の基は人、という根本を思い起こさせる経験だった。
by flauto_sloan | 2009-03-22 07:17 | Japan/Israel Trek
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