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MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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贅沢は敵 - 寄付に頼る米国オーケストラの苦悩
不況がますます深刻化するここアメリカでは、当然のように嗜好品、余暇、文化活動といった生存に関わらないものへの支出が切り詰められている。いわば贅沢は敵だ、というところか。ウォルマートの "Save money, live better" キャンペーン、テレビ番組での「安くて心のこめてプレゼントを手作りしよう」という企画など、お金を賢く使うことが求められているし、企業はそのニーズに対応しようとしている。

そしてニューヨークのレストラン・ウィークは2月に2週間のはずがどんどん延長し、3月一杯までの『レストラン月間』となっている。そうでもしないと高級店に人が集まらないのだ。

クラシック音楽も不況のあおりで、企業からも個人からも寄付が集まらず、チケットの売れ行きもまた芳しくないようだ。ジュリアード音楽院はようやく改装が終わり、Alice Tully Hall も22日にオープニングするが、華やかになった外見とは裏腹に、寄付が減ってかなり財政は厳しいらしい。

収入の半分近くを寄付に頼っているオーケストラやオペラも大打撃を受けている。寄付の減少による採算悪化を少しでも軽減するため、チケット収入を少しでも増やさねばならない*1。チケット収入は、ホテルのようにホールの稼働率が勝負(空席を残しても、微妙に音響がよくなるくらいでなにもいいことはない。むしろ安く売ってでも席を埋めたほうがよい)なので、MET、NYP、BSOですら、色々なキャンペーンで売れ残ったチケットをなんとか捌こうとしている。例えば
  • METは "Weekend Ticket Drawing" として、週末公演の良席のチケットを、抽選で当たった人に1枚$25の特価で販売している
  • NYPは友人を誘うと特別優待をするなど、定期会員向けのサービスを増やしている
  • BSOは "<40=$20" キャンペーンで、特定の公演に対して、40歳以下なら$20と特価でチケットを販売している
もちろん、このキャンペーンが恒常化すると、観客が廉価にチケットを買えることを期待し、正規価格でチケットが売れなくなってしまうため、あくまで対象を限定した特例措置である。だからBSOなど「ある篤志家の寄付のおかげで、今回このキャンペーンが実現しました」と、一時的であることを強調しているし、METも抽選を行っている。

こうした努力の甲斐あってか、演奏会に行っても人は集まっている。暗い時代だからこそ音楽に癒されたいからか、単に景気が悪くなる前に通期でチケットを買っていたからかはわからない。後者であれば、来シーズンは定期会員も減るだろう。アメリカのクラシック業界も冬の時代に突入してしまったようだ。


*1 出演者が多く舞台装置が大掛かりなオペラや、ホールが借り物の日本のオーケストラでは、チケットを全部正規料金で売っても演奏会は赤字になる。だが演奏の質の維持、文化への貢献から演奏会を一定数しないわけにはいかない。そのため、演奏会開催を所与とすれば観客動員数を高めることは損失軽減の必要条件である
by flauto_sloan | 2009-02-20 22:41 | NYでの生活
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