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MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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中東での医療
Harvard Middle East and North Africa Weekの、Public Health Conferenceにちょっと出席してきた。一番の理由は(以前一度聞いたが)Noam Chomskyの講演だ。今読んでいる彼の本では、アメリカの対中東政策が徹底的に批判されている。もうすぐイスラエル・ハマスの停戦協定が失効するタイミングで、彼が何を語るのかに非常に興味があった(注: このブログを書いている12月末現在、イスラエルによる痛ましい空爆がガザ地区に行われている)。

内容はアフリカ中心かと思いきや、中東中心であった。この地域への知識・理解の不足と問題の根深さを、公衆衛生を切り口として痛いほどに感じた。konpeさんのレバノン訪問でのヒズボラとの対話でも随分取り上げられているが、イスラエルとイスラム(特にパレスチナ)との問題は根深く、お互いに事実が自分に理解・納得できる形でのみ切り取られて事実として認識され、対話が進まない。

その紛争の影響がはっきりと表れるのが、ガザ地区での劣悪な環境と人々の悲惨な生活だ。勿論、イスラエルが悪いとかハマスが悪いとか、アメリカが悪いとかを安直に論じることはできない。はるかに根深い歴史と構造とがこの悲劇を硬直化し増幅させているからだ。だが自分が今何を建設的中たちで行えるかといえば、ここで見聞きしたことをジャーナリスティックにブログに書き残すことくらいなのが悔しい。

中東での健康問題
まず、世界銀行の保険政策エキスパートのSameh El-Saharty氏が、中東における健康問題の概観を解説した。今中東が抱える問題で大きなものは以下とのことだった。
  • 依然高い死亡率と、公衆衛生対策費における公的資金の割合の低さ(民間依存が大きい)
  • 急速な人口増加(と、それに伴う必要な職の急増)
  • 男女とも高い喫煙率 / 肥満と栄養障害
  • 上記の結果としての医療費の急増
    社会的非効率
  • 公立病院の低稼働率、多すぎる医師数(GDP比)
  • 同時に、医者が高報酬の海外を志向することによる、国内医療の空洞化*
これらを基本的な共通認識として、プレゼンターが発表をした。

中東の公衆衛生
中東での医療_c0131701_6461881.jpg続いて、ハーバード公衆衛生大学院のMarc Roberts教授が、自身も関わっている中東の公衆衛生政策への提言を述べた。主間のものは
  • 競争原理の導入による効率化と、慈善的権威主義の活用によるイスラム諸国間のネットワーク強化
  • インセンティブの再設計による医療機関、特にマネージャーのマネジメント・スキル及び仕事への姿勢の是正・強化(盲判など事務処理をすることがマネジメントだと思われている)
  • 併せて、マネジャーとしての自己認識を育て、スキルを根付かせるためのトレーニングの実施
  • 公的医療機関のパフォーマンスを測定し、長期的視野に経った報酬・再教育・配置政策を策定
聞いていて非常に正しく聞こえるのだが、本当に中東の宗教・文化的背景で、個人や自由意志を根幹とする欧米的思考・価値体系で構築された経済・医療システムが上手くいくのだろうか、若干心配になった。

悲惨なガザ地区
チョムスキーの前に、モデレーターであるHuman Right Watchの人が、ガザ地区の悲惨な状況を紹介し、占領しているイスラエルの不法性と非人道性を訴えた。ハマスが政権を取って以降、ガザ地区では医薬品、食料、水、その他生活必需品が絶対的に不足しており、国際機関の援助に拠っている。ロケット配置に対する経済封鎖による処罰は不法であり、イスラエルの唱える安全保障上の理由による正当化は成立しない、と訴えた。

中東での医療_c0131701_6465861.jpg続くチョムスキーは、自らがガザ地区を訪れた経験を元に、アメリカとイスラエルの横暴を非難した。
アメリカの恣意的な対パレスチナ政策と、メディアを通じた偏向報道とは危険である。民主的な選挙が重要だと喧伝して実施した結果、ハマスが第一党として選ばれると、過酷な制裁で罰を与えようとしている。またアメリカは国際法に違反し、病院を標的にした攻撃をしただ、恐ろしいことに、アメリカの新聞がそれを作戦の成功として前向きに書いたことだ。またハマスがイスラエル兵士を殺害したことを非難したが、その前に米軍が一般市民を誘拐し、秘密収容所に収監したことは伝えていない。市民の誘拐は犯罪で、兵士襲撃はその報復だったのだ。

米国、特にブッシュ政権は国際協定を自ら守らず、その結果骨抜きとなっている。オバマ次期大統領は賢いが、依然イスラエルを支持している。米国が果たした唯一の建設的役割は、2000年のクリントン大統領によるキャンプ・デービッドでの紛争解決に向けた協議のみだ。


その後も、ガザ地区での衛生環境を調査し、国際社会に告発した医師による発表が続いた。パレスチナ人は文字通り極限の生活をしているのが伝わる。ガザ地区のパレスチナ人の失業率は71%であり、社会として機能していないという。


イスラエルにはイスラエルの言い分があり、和平を推進したラビン首相の暗殺以降、対応は強硬になっている。その強硬策がハマスを一層先鋭化させ、お互いに紛争以外の選択肢を狭めあっている。だがこれを仲裁すべき「世界の保安官」アメリカは、ブッシュ政権になって悪循環の加速しかしていない。オバマ政権になってアメリカの役割が(少なくとも今よりも)中立寄りになり、再び和平に向けたとりなしをしてくれればよいが。リユニオンを目指すのならば。


* 中東ではそこまで大きな問題でもなさそうだったが、途上国の中では、医者を先進国(イギリス等)に搾取され、国内の医療システムが進展しない事態になっているところもある
by flauto_sloan | 2008-12-05 22:49 | Guest Speakers
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