MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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Acumen Fund創立者 ジャクリーン・ノヴォグラッツ氏 - 貧困とは収入のなさではなく、自由のなさ
c0131701_20453939.jpg貧困問題に取り組む起業家を支援するNGOのAcumen Fundの創立者、Jacqueline Novogratz氏の講演がMITのLegatum Center for Development and Entrepreneuship主催で行われた。
Legatum Centerは2007年に投資ファンドのLegatumの支援で創立された、開発支援のためのプログラムで、スローン生も何人か所属している。

ノヴォグラッツ氏はウォールストリートの投資銀行から身を転じ、貧困問題に取り組んできた。そのきっかけはドラマチックだ。
小さいとき、青いセーターがお気に入りでいつも着ていました。でも周りの子に「あの青いセーターのやつ」って呼ばれて嫌になって、衣類リサイクルの慈善団体に寄付しました。

投資銀行に勤めていた時、アフリカに休暇に行きました。ジョギング中一息ついて、風景を眺めていると、あの青いセーターを着た子供を見つけました。驚いて駆け寄り、セーターの襟元を見ると、私の名前が縫ってあったのです!! 

この偶然きっかけで、衣類のリサイクルについて調べ始めました。すると、リサイクルの衣類によって、地元の織物産業が衰退していることを知りました。好意のために貧しい人をより貧しくしてしまっていたのです。これを知った私は、現地の貧困層が本当に暮らし向きをよくするためには何ができるかを考え、一大決心をして退職し、開発支援の世界に身を投じました。
その後氏は色々な失敗に試行錯誤しながら、ロックフェラー財団を経て創業したAcumen Fundを成長させていった。ファンドは有望な起業家に資金やノウハウを提供するマイクロファイナンスを実践していく。そこからの学びは愚直で誠実だ。
アキュメン・ファンドで学んだことは3つあります。
  • 人の心には、富よりも尊厳こそが重要である…金銭的に成功することよりも、成功そのものが重要
  • 援助や慈善行為だけでは貧困問題は解決しない…腐敗や賄賂の温床になってしまう
  • 市場(メカニズム)だけでも貧困問題は解決しない…市場に依存しすぎると、却って自体は悪化する
ファンドがうまく機能するには、ペイシェント・キャピタル(長期的・社会的リターンを目的とし、市場平均よりも低いリターンでも許容できる資本)の存在が重要で、その上で金融と社会を結びつけることが成果につながります。

ただペイシェント・キャピタルだけが全てではなく、資本には様々な性格のものがあるので、目的やプロジェクトの性質に合わせてそれらを結びつけています。そうすることで、企業からも公益団体からも資金を調達できるようになりました。

支援の現場では、現地のニーズを知った上で、使い易くわかりやすいデザインが重要です。例えば安全な水を販売するスタンドを作ったとき、IDEOのチームを招き、人々の動き方を観察して設計したところ、古いスタンドよりもより効率的に水を売れるようになっただけでなく、地元の人の利用も増えました。

現地の起業家のエネルギーと行動力を決して侮ってはいけません。アフリカの蚊帳ネット(住友化学の製品)は、マラリア予防に効果的です。この事業に投資した結果、工場は拡大し、100人、1000人と雇用を創出し、しかも最先端の工場に劣らない生産性を達成しました。

一方で地元の文化に合ったやりかたを見つけていくことも必要です。この工場では最初、中国のように従業員の女性たちを寮に住まわせました。彼女らはすぐにお金を貯めて、家に仕送りしたり、買い物を楽しんだりしました。ですがその結果、家族の男性達の面子をひどく傷つけ、暴力など事件につながることもありました。この微妙なニュアンスを、現地に入って理解しなければなりません。

貧困とは収入がないことではなく、選択の余地や自由がないことです。収入レベルを上げようと議論するよりも、実際に現地に行って、目で見ることが、何が必要かを理解する近道です。

恐れや不安から人々を解き放ち、働き、希望を持ち、心を癒すためには、イノベーションと起業家精神が重要です。ただ技術もそれ自体が問題を解決するわけではなく、現地のニーズや、そこで成り立つビジネスモデルを深く理解したうえで、技術をコミュニティと結びつけることが必要です。
ノヴォグラッツ氏は、パッションの塊というような人だった。現場に飛び込み、本当に必要なものを見極めるまで、何度失敗してもくじけない。そして、恐れを脱し、瞳に希望が燈った起業家たちの写真を、嬉しそうに紹介する姿には、心打たれるものがあった。

ただ、ここまで開発に興味を持ちつつ、そして経験するチャンスが何度かあったにも関わらず、2年間結局実地で関わることはなかった。意志はあったし不運ももちろんあるのだが、結果は結果として何故何もしなかったのか、自分の何がこの結果につながったのかを考えておきたい。ノヴォグラッツ氏のように、どんなきっかけでそちらの道に進む覚悟を決めるかわからないから。
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by flauto_sloan | 2009-04-09 20:43 | Guest Speakers
ローマクラブ首魁 - 人類の未来と自然の知恵
c0131701_2045740.jpgソローとマンキューの巨魁会談に続いて、ローマクラブ総裁のAshok Khosla氏による講演に参加した。

ローマクラブの代表としてよりも、貧困撲滅に向けた彼の私企業の取り組み紹介が主であったのだが、経済学者と社会活動家のスタンスの違いが興味深い。

ローマ・クラブは科学者や研究者の集まり(秘密結社?)で、1970年に『成長の限界』(出版は1972年)を唱え、世界中で大きな論議を巻き起こしたことで名高い。そしてその『成長の限界』にはJay Forrester率いるMITのシステム・ダイナミックス・グループが参画していた。40年以上たった後も『成長の限界』は増版と改訂を重ね、未だに色あせていない。

希望は母なる自然に?
彼の取り組みの狙いは、貧しい人々に資源を十分に配分することで、気候変動を改善しようというものだ。世界の85%の富を持つ20%の豊かな人々は再生不可能なエネルギーを消費し、殆ど富を持たない50%の貧しい人々は、生存のために再生可能な資源を破壊している。その結果は資源が質・量共に悪化することであり、気候変動や様々な問題を引き起こす。もはや人類を維持するためには地球一つでは足りない*1

一つの地球で人類を持続させるための唯一解はなく、国際組織、企業や人々がそれぞれにできることをしなければならない。例えばある製品が製造されるまでに消費される資源量(リュックサックと呼ぶ)を認識して資源の効率化を図る、などだ。20gの金の指輪は20tの資源が消費されて作られている。

資源を効率的に利用するための一つのヒントは、自然界のテクノロジーにある。例えば蟻塚は砂漠の土を使いながら中は非常に涼しい。この蟻塚の構造を利用したエアコンなしの建物がジンバブエに建てられて成功している。Khosla氏の私企業も、こうした自然の知恵の応用を行っているという。

経済学者と活動家
途中で経済学部と思しき学生が「先ほどノーベル賞経済学者たちが、『世界の貧富の差は縮まっている』と言っていた。本当に貧富の差は広がっていると言えるのか」と聞いたのに対し、氏は

「経済学者は確かにそういうのだが、国という単位や、比率やパーセントで貧困問題を捉えては多くを見過ごすことになる。問題は貧困にあえぐ人が何人いるかであり、彼らにとって国や比率は何の助けにもならない

と答えていた。これは政策判断を諮る経済学者と活動家の違いであるが、両方を意識してバランスを取りながら考え・活動することが重要だと感じさせられた。

1798年のマルサス『人口論』や1970年の『成長の限界』などによって警鐘を鳴らされてきた人類は、遂に自らから学べずに衰退局面を迎えるのだろうか。人類の認知能力はそれほど低いのか。

陰鬱な未来を打破できる希望が、人類の内にではなく自然にあるかもしれない、という見方は技術的な適用性以上に希望を持たせてくれる。勿論、それだけで状況が劇的に改善するような特効薬にはならないだろうし、思わぬ副作用があるかもしれない。だが人間が持てる限り、自然が持てる限りの叡智を結集しても、地球一つに人間活動を収められるかはわからない。

技術でできることも限られている。あとは破綻しつつある市場経済を再構築した先に同じ過ちを犯さずにいられるかどうかにかかっているのだろう。

*1 2030年まで人類が今のペースで成長し活動する場合、地球が3つない限り維持できない
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by flauto_sloan | 2008-11-13 20:35 | Guest Speakers
N.Negroponte "One Laptop Per Child"
もうすぐクリスマス。
夢見る子供たちのために、サンタになってみませんか?



特別授業(と春学期の授業の宣伝)であるSIP(sloan innovation period)の初日である今日は、あるイベントの後に、かねてから話を聞きたいと思っていた、ニコラス・ネグロポンテ教授の "One Laptop Per Child (OLPC)" についての講演に参加した。MITの "Poverty week" の開会基調講演だった。


ネグロポンテの夢
ネグロポンテ教授は、途方もなくスケールが大きい。MITメディア・ラボの共同創立者として、マン・マシン・インターフェースの一大拠点を築き上げる。「おもちゃ箱をひっくり返した」と形容されるメディアラボのコンセプトから設計までを手がけ、天才アーキテクチャーとしての才を遺憾なく発揮している。

今はMITを休職している彼の夢は、貧困をなくすことだ。そのためにン・プロフィット機関の "One Laptop Per Child" を立ち上げ、途上国の子供にラップトップPCを配り始めた。OLPCはあくまで貧困撲滅に向けた教育プロジェクトであり、決してPCありきのプロジェクトではない。PCを手段として途上国の子供たちがより勉強を楽しみ、プログラミングを覚えて貧困から抜け出せるのではないか、そんなアイディアから生まれたプロジェクトだ。

彼の貢献は着実なインパクトを生み出し、世界中の政治・経済のリーダーの尊敬を集めている。先日MITを訪れた、ルワンダ大統領も感謝の意を表していた。多くのビジネスリーダーも賛同し、惜しみない協力を寄せている。

そんな彼の講演は、情熱に溢れた、素晴らしいものだった。


OLPC
誰しも、初めてパソコンを買って、電源を入れたときのわくわくした気持ちを覚えていることだろう。インターネットで世界につながり、写真をすぐにみんなで見られて、音楽も聴ける。

貧しく、物もない村の学校に届けられた、緑色でちょっとおどけた格好のパソコンを手にした子供たちが、どれほど目を輝かせることか、想像してほしい。想像してみたら、この記事の子供たちの写真を見てほしい。


セネガル、パキスタン、コロンビアなど一部地域から始まったOLPCの活動は、今やその規模を世界中に広げている。電気も電話もない村々でも使えるよう、省電力だし電源は手巻きだ。子供が持ち帰ってきたパソコンを見た両親が驚くのが、LCDの明かりであることが多いという。電灯がないため、夜に家で一番明るいのがパソコンなのだ。カメラもWiFiも備え付けているため、家族の写真を撮って遠くの人に送ることもできる。

OLPCは5つの原則がある。子供が実際に自分のものとすること(貸与ではない)、低学年から配布すること(児童労働を避ける)、子供たち全員に行き渡らせること、ネットワークに繋がること、そしてフリー/オープンソースを利用することだ。

OLPCが直面している課題は、コストの増加と競合だという。銅など材料費の増大やドル安のため、$100を目標にしていたPCのコストは、まだ$187だという(ただしもし4年前と同じ原材料費と為替だったら、もう$100を達成していたらしい)。

また競合が登場したことで、原則のひとつである「全員に行き渡らせる」が達成しにくくなっているという(ただし、単なるコピー品の登場は歓迎している*)。非営利でない競合が途上国の高官を口説いて先に入った場合、利益が出る地域にしか廉価PCを売らないため、普及率が高まらないまま終わってしまう。

この金融危機も逆風だろう。そんなOLPCをよく知りつつ支援する方法がある。


11月17日から、Amazonで"Give one, Get one"キャンペーンが行われる。$199を払うと、一台があなたの手許に届き、もう一台が世界のどこかの子供たちの許に届けられる、という夢のあるキャンペーンだ。

技術が子供に与える夢がある。
あなたもサンタになってみませんか。

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* 面白かったのは、ネグロポンテにも大きな誤算があったという。コピーやアイディアの盗用が予想以上に早く表れたことだ。
「あんなに早くコピー製品が表れるとは、全く誤算でした。おかげで想定した以上にPCが普及してしまっています(笑) だからこれからは新機能など、計画の早いうちからどんどん発表して、いち早くコピー製品が現れるようにしようとおもいます。
また、コピー製品の開発を加速するために、パートナーとは『秘密開示契約』を結ぶことにしました(笑)」と、器量の大きいユーモアを語っていた

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by flauto_sloan | 2008-10-20 18:27 | MITでの学び(非MBA)
大虐殺を越えて - ルワンダ・カガメ大統領
c0131701_813981.jpg昨日(ボーゲル先生の講演C-functionの間)、ルワンダのカガメ大統領の講演会へ行ってきた。MITのCompton Lecture Seriesにて招聘されたもので、こちらでその様子を映像で見ることができる。

ルワンダ内戦にてツチ族とフツ族が争い、100万人のツチ族が虐殺されたと言われる。内戦平定後、ルワンダで初めて民主的に選ばれたのがこのカガメ大統領だ。

大統領は落ち着いた、語りかけるような口調で、アフリカの成長におけるテクノロジーの貢献と今後の課題を述べた。軍人であるにも関わらず、親しみや優しさを感じる人物だった。様々な評価はありながら95%の得票率で再選したのは、紛争に疲れた国民がこの人物に信頼を寄せているからかもしれない。
アフリカはもはや暴力と貧困だけの大陸ではなく、機会に満ちた大陸である。今や金融、エネルギー、テクノロジーなどの産業が、自国の企業を育てながら成長している。ルワンダは虐殺から14年を経て、ようやく平和を取り戻し、民主主義や前進を考えることができるようになった。今や中国、インド、中東湾岸諸国から直接投資が盛んに行われ、経済は年7%で成長している。

その成長においてテクノロジーが果たしている役割は大きい。MITのネグロポンテ教授が推進する"One Laptop Per Child"や、携帯電話の普及は教育の向上や地元経済を成長させる原動力となっている。特に携帯電話は普及率で固定電話を抜き、アフリカの携帯電話史上は世界一の成長性を持っている。国を跨いだ携帯電話会社が誕生しており、普及を促進させている。その結果、インターネットの普及は世界の3倍の速さで進んでおり、その利用によって産業の効率化と成長に大きく寄与している。多くのマイクロ・エンタープライズが携帯電話を活用して誕生している。

今後必要なのは科学技術の教育である。ルワンダ自らがイノベーションを起こし、資源を活用して富を築いていくためには、質の高い教育が必要である。アメリカの教育システムから学ぶものは多く、またアメリカの教育機関に期待するものも多い。

今後まだまだルワンダとアフリカが直面する課題は多い。それを乗り越え、その先の繁栄を実現するためにも、MITとの関係を今後も深めていきたい。

(中国などの進出をどう考えるか、という問に対して)
たしかに中国はアフリカの資源を狙って、アフリカでの支配力を強めようとしていると言われている。だが彼らはアフリカを初めて台頭に扱ってくれている国々であり、欧米の反発はアフリカの重要性が増したことを物語っている。だから中国が悪いとは思っていない。

中国の進出が問題になっているが、そもそもアフリカはこれまで様々な欧米の列強に支配されてきた。中国は国際的に人権問題などを批判されているため、アフリカ進出に対しても穿った見られ方をしているのだろう。アフリカにしてみれば、中国やインドは自分たちをパートナーとして対等に扱ってくれている。これは初めてのことで、哀れみの対象としか見ようとしなかった欧米からは受けなかった扱いだ。

また、アフリカをめぐって欧米と新興国が衝突していると言うのは、アフリカの重要度が以前にも増して認識されているということを意味している。単なる資源の産出地ではなく、投資や成長の機会の地として看做されていることを示しているのだ。

中国などがやってきて、こちらが何もしないで眠っていれば、身ぐるみ剥がされるだろう。だが起きて目を見開いていれば、そんなことは起きない。我々はただ、彼らを歓迎するだけだ。
この地で肌身に感じるものの一つに、アフリカへの注目と期待の高まりがある。以前マクロ経済の授業でも感じたが、アフリカ出身の人々は苦しい過去や直面している課題を理解した上で、自分の大陸に対する誇りと期待を強く持っている。

以前アフリカの夜という集まりでも、今後のアフリカの課題と機会について議論した。自分がどこまで関われるのか分からないが、大きな時代の潮流の一つであり、考えさせられるものが大きい。
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by flauto_sloan | 2008-09-18 22:49 | MITでの学び(非MBA)
開発と正義
MITのInternational Development GroupのBalakrishnan Rajagopal教授が、"Is development good?"という刺激的なタイトルで講演をした。昼を一緒に食べたkonpeさんと聴きに行く。開発の現場をよく知る教授の、冷徹な正義感が窺えた。

教授はカンボジアにて国連の人権高等弁務官として働き、今も人権擁護のNGO活動などをしている。そんな教授が語るに、開発は多様な意味を持つし、その善悪もまた視点によって大きく変わる。だが開発の意義と評価を考える上で重要な視点・変化として、教授は以下の5つを挙げていた。
  • 重要で意味のある干渉ができなくなったこと
  • 開発が多くの矛盾を内包し、正しい答えも転用可能な性質もないこと
  • 「これをやらねば」という政治的責任から、「これはできない」という官僚的無責任へと政府が変質してしまっていること
  • 社会的責任や道徳から、自己の利害へと関心が移ってしまったこと
  • 官僚が実行できるレベルに開発の目的が狭まってしまったことと、そんな官僚たちを説得するための手段が限られてしまったこと
それでも途上国で開発を実践するためには何がまず必要なのか、という問いに対し教授は、法や規則を整備することが重要であり、受益者や責任を持つべき者に、正しくコストやリスクを振ることがまず必要である、と答えた。

この答でふと、人類は基本的なレベルでどれくらい進化したのだろう、と思ってしまった。春秋戦国の混沌とした中原で、儒の理想に対して現実を直視した、法家の商鞅や韓非が唱えたことはまだ生きているのか。人の営みの根源とはなにで、国家の礎とはなんであろうか。問いが問いのまま深まった。
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by flauto_sloan | 2008-04-29 23:25 | Guest Speakers
国境なき医師団
国境なき医師団(MSF: Medecines Sans Frontieres)、というと日本ではまだ知名度があまり高くないのかもしれません。
MSFは1999年にノーベル平和賞を受賞した、世界70カ国で活躍している人道支援団体で、その名の通り世界中の貧困地域、紛争地域等へ医療を提供すべく、世界各国から医師が集まり、危険と隣り合わせになりながら人々を救けています。

今週は Harvard/MIT MSF Week として、MSFの医師がHarvardやMITで講演をしたり、ブース展示をしたりしています。今日はHarvard Medical School へ行き、実際に活動をしている医師のお話を聴いてきました。
内容はMSFが抱えている問題についてで、崇高な志と現実とのギャップが、資金面を除くと3つの問題点として顕在化しています。

(資金面の課題はもちろん重要です。非営利団体であるため、寄付金が主要な資金源なのですが、現在は米国で79%を個人からの寄付でまかなっており、製薬企業など法人は7%に過ぎません。中立性を保つために、大部分を民間から集めているのですが、それだけに規模の急成長はできません)

1. Neglected Diseases
アフリカ南部などの地域では、症例として少なくなった(眠り病やマラリアなど)、あるいはまだ重要視されていない病気があります。当然営利を目的とする企業の研究対象にはなり得ず、研究活動の1%にも達していない、「無視された病気」となっています。
MSFは1999年以降、Anti Malaria キャンペーンを始め、これらの病気に対する研究活動を始めていますが、規模もリソースも、企業の支援もまだまだ不足しています。

2. Malnutrition
アフリカで依然深刻な栄養失調児童を助けるべく、RUTF(Ready to Use Therapeutic Food)を配り、速やかな体重増加を促しています。

3. Barriers to Access
これがMSFの目下の頭痛の種と云えるでしょう。
1995年のWTO決議によって、知的財産権が国際的に保護されるようになったのですが、医薬品に関しては、人道支援上の制約となっています。
20年の特許が、life saving medicine にも trivial goods にも区別無く適応されているため、HIVなどに苛まされるアフリカの貧困地域で医療活動をしようにも、とても高くて薬が使えなくなってしまっています。一部企業から特別提供を受けたり(ただし量は不足)、ジェネリック薬を使ったりしているのですが、並行輸入や知的財産よりも人道支援を優先するといった現象が起きた結果、「MSFは知的財産権を侵害している」とマスコミから非難されてしまっています。
薬は金持ちのためにあるのか、すると人の命は金によって差があるのか、という悔しさが医師の言外に表れており、共感するとともに、企業活動と人道支援の共生の難しさを感じました。

ちょうど前日にPfizerのR&Dのトップの方の講演があり、研究開発のアプローチを改善しても、本質的に創薬には膨大な時間と労力と資金が必要であることを聴いており*、その効果的な回収のためのターゲティングやブランド維持の必要性を感じていました。企業の事情にしてみれば、実費でアフリカへ薬を提供することは自ら市場を縮小させていることにつながり、(少なくとも短期的には)企業価値を毀損してしまいます。

しかし企業の社会的責任が問われる昨今、人道支援という大義に対して、製薬企業は何をどこまでできるのか、Barrierとなるのか否かが問われている、と思いました。


今日聞き、感じたのは以上のようなものでしたが、会社の親しい同期がMSFと縁があり、MSF日本の状況を聞いたことがあります。
日本ではユニセフなどに比べて知名度が圧倒的に低く、実際の活動のインパクトの大きさに比べて、資金(寄付金)調達に非常に苦労しています。

背景には、他の先進諸国に比べて、日本における寄付金市場が非常に小さいことがあります。富裕層の少なさ、philanthropyの未成熟、遠くの病人より近くの他人といった共同体意識、等々様々な要因はありえます。
が、まずはMSFの活動を知り、自分では行くことのできないアフリカでの崇高な活動に対して、ここでできることから始めるべきではないでしょうか。

ちょっと説教くさくなってしまいましたが、是非一度MSFウェブサイトをご覧頂くことをお勧めいたします。


* そのため全て内製することをやめ、大学や研究機関など外部とのパートナーシップを強化している
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by flauto_sloan | 2007-10-31 22:48 | Guest Speakers