MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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Visual Art for 21st century Business Leaders
c0131701_035279.jpg最後のSIP(Sloan Innovation Period)では、"Visual Art for 21st century Business Leaders" という一風変わった特別授業を履修した。
先学期のBenjamin Zanderによる"The Art of Leadership"に続く、芸術系の授業だ。

最近、MITやハーバードでは、芸術家と科学者やビジネスパーソンの対談や、芸術家によるクリエイティビティの講義など、アートから不確実な時代を生き抜くリーダーシップや即興性を学ぼうという動きが強い。この授業もその流れなのだろう。

だがこの授業は難しいことを考えるというよりも、創作活動の体験を通じて、なにか学び取ってもらおうと設計されている。会場はボストン美術館脇のSchool of the Museum of Fine Artsだ。美大特有の空気が面白い。

1日半のプログラムで、初日はアニメーション製作、楽器製作・演奏、インストレーション製作の3つを行い、二日目はアートビジネスをどうしたら発展させられるかについて考える。指導はSMFAの教授であり、気鋭のアーティスト達だ。

アニメーションは非常に面白かった。雑誌の切り抜きをコラージュにして、1コマずつ撮影していく。コマと時間の対応がなかなか掴めなかったために、猛スピードでストーリーが展開してしまったが、割と満足。だが恥ずかしいのでここには載せないでおく。

c0131701_0322099.jpg楽器製作は、ペットボトルなどありふれた素材を使って、何かを作って演奏する*。弦楽器、管楽器、打楽器は問わない。私はアルペンホルンのような、管楽器兼打楽器を作った。6人チームでそれぞれの演奏を録音し、後で重ね合わせると面白い音楽が出来上がった。

c0131701_0324587.jpgインストレーションは、一室を好きなように使って、何かを表現していく。前のチームの作ったものを壊しても、発展させても構わない。同じく参加していたHajimeのチームに建築家が集合し、調和の取れた製作をしたので、残り2チームがよさを残しつつ再構成していった。

だがどうも、私は空間美術のセンスはないようだと痛感した。わくわくしないのだ。向き不向きがわかっただけでも良しとしよう。


ものを創造する楽しさと、右脳の使い方(というより飛ばし方)を再認識した。高校の図工以来かもしれない。この統合と調和を見出し、即興的に動いていく能力は、引き続き伸ばしていきたいと思った。義務感ではなく、楽しみとして。


* 音楽準備室には、電子楽器「テルミン」があった。初めてテルミンを演奏してみたが、とても面白い。ちゃんと演奏するのは相当難しそうだが、楽しい楽器だ
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by flauto_sloan | 2009-03-18 21:02 | MITでの学び(MBA)
Web3.0
今学期の授業で、Stuart Madnick教授のWeb3.0という授業をとっている。Web2.0が喧伝されて久しいが、一歩進んで「Web3.0とは何か。それが社会やビジネスに与える影響は何か」を考える。コンピューターサイエンス界の巨人Tim Berners-Leeを擁するMITという地の利を生かして、最先端の研究者を次々と呼んで、今何が考えられているのかを聞き、議論する。

Web2.0の定義も人によって様々だから、当然Web3.0が何かというのは全く定まっていない。Web3.0の定義文コンテストがあったり、Wikipediaでは記事が載っては削除されたりしている。この授業では、データのパミッションになぞらえて、以下のような枠組みで考えている
  • Web1.0="read": Web上のデータは読むことしかできず、ユーザーは定められた手順や範囲でのみ行動する
  • Web2.0="write": Web上にデータをアップロードしマッシュアップできるようになり、ユーザー参加型ビジネスがセレンディピティに介けられ主流になる
  • Web3.0="execute": セマンティック・ウェブによってデータの意味を区別した構造が出来上がり、Web上のデータは機械同士で自動でやり取りが行われるようになる
もしこれがWeb3.0であり、近い将来に実現するとなると、医療(特に診断)やコンサルティングなど知的サービス産業は大きく変わるだろう。データ収集能力や定型的な分析能力は機械(というかクラウド)によって自動化され、価値が急落する。

コンサルティング業界に喩えるなら、ファームに高いフィーを払わなくても、経営企画部では自社の経営指標と産業の構造や景気、主力製品の一般評価や地方の営業所のコンプライアンス違反まで、Web上で情報が「意味や文脈を踏まえて」自動収集される。さらに、Forces at workや3C分析といったある程度定型化された分析も為され、とるべき行動のオプションまで推薦される(その構造をパッケージ化して売り出すファームが現れるのは間違いない。例え自分の首を絞めることになっても)。コンサルタントはより高度でアーティスティックな問題解決だけを求められるようになるし、需要も減るのでコンサルタントの数自体大きく減っていくかもしれない。

産業革命と農業技術の発達が農業人口を工業人口に転化し、情報革命とオートメーションが工業人口を情報産業人口に転化した。情報産業がオートメートされ、セマンティック革命が起きると、情報産業の人口はどこにいくのだろうか。宗教か芸術に回帰するのか、或いは新しい産業が生まれるのだろうか。
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by flauto_sloan | 2009-03-15 23:55 | MITでの学び(MBA)
サロー教授の最後の授業
c0131701_538386.jpg先日紹介した、レスター・サロー教授の最終講義があった。生徒は誰も今日がこの大経済学者の最後の授業だとは知らかった。
サロー教授がいつも以上にお洒落なスーツに身を飾り、りごぼん教授など何人かのファカルティが授業を見に来たので、何だろうとは思っていたが、まさか今日を以って教鞭を下ろすとは、驚きだった。

その最後の授業は、アメリカの経済についてだった。一問一答だったのでまとまりはなかったのだが、全体のメッセージとしては、以下のようなものだった。
アメリカが豊かな国であるのはGDP per Capitaの予測を見ても当面変わらないが、経済成長は労働ではなく技術進歩に頼らなくてはいけない。今回の不況も、構造的な変化というよりも、コモディティ価格が下がったことに起因する景気循環であろう。
最終授業によくある、教授から学生へのメッセージがあるかと思えば、授業は30分ほどであっさり終了。テストの連絡をすると、そっけなく教授は教室を去ってしまい、生徒も慌てて拍手をして見送った。

もう高齢の教授は一度大病を患ったため、言葉があまり明瞭でなくなってしまい、耳の遠さも相俟って、なかなか授業は難しそうであった。それでも最後まで気焔を吐いていた意志は素晴らしい。彼の議論は納得いかないものも多かったし、かつての切れ味はなかったとしても*、非常に刺激的だった。

去り際も、飾った言葉が似合わない彼らしい、背中で語るものだった。
MITスローンの一時代の終わりであった。


* 噂だが、彼がスローンの学部長だった頃、GMの将来がないことを見通したサロー教授は、学校の名前からスローン(GM創業者 Alfred P. Sloan)の名を外そうとしたことがあったそうだ。法的制約など諸般の事情で断念したそうだが、今にしてみれば慧眼であった
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by flauto_sloan | 2009-03-10 05:06 | MITでの学び(MBA)
TripAdvisor Stephen Kaufer CEO - Web 3.0
c0131701_7231739.jpg今や旅行をする時には必ずチェックするサイトが、TripAdvisorだ(日本語版)。そのCEOのKaufer氏が、Web3.0の授業に招かれた。カウファー氏はきさくなエンジニアといった外見と、人当たりの良い話し方で、非常に魅力的だった。自分のビジネスの良さを曲げない信念と、一方で臨機応変に気づきに対処する柔軟さが見事だった。

トリップアドバイザーの成功
トリップアドバイザーは、Web 2.0の代表で、旅行の口コミサイトである。メンバーが世界各地の旅行情報(ホテル、レストラン、観光名所等々)を書き込み、それがメンバー同士で評価される。評価ページで気に入ったホテルやレストランがあると、そこからexpediaなどの予約サイトへ直接移動できる*

トリップアドバイザー社の収入はこの予約サイトから得ていて、どれだけサイトへ移動(リード)し、どれくらいが実際に予約したかで売上が決まる。実際に予約状況を確認しようとするユーザーは、既にその場所へ強い興味を持っているため、リードからの成約率は高い。

Web 2.0の他のサイトと同じように、ユーザーは自分からコンテンツを作成していく。例えば築地市場は何故か外人の書き込みばかりなのだが(確かに東京に住んでてもなかなか行かない)、全部で20件あり、「寿司が美味しいし市場も面白いので是非行くべき」から「ぼられるから注意しろ」まで色々に書き込まれている。トリップアドバイザーは、差別的など非常に問題がある書き込み以外、否定的なものも肯定的なものも残す。それがユーザーの総意であり、結果として秩序と便益が保たれるのだという。

今や幅広いパートナーを持ち、旅行サイトでは圧倒的な便利さと人気を持つようになり、2004年に2億ドル以上でIACに買収された。買収以後もカウファー氏はCEOで残り続け、facebookの"cities I've visited"アプリによって更に顧客層を拡大するなど、積極的な拡大を続けている。

カウファーCEO
CEOのカウファー氏はシリアル・アントレプレナーで、いくつか起業をした後にコンピューター・エンジニアとして勤めていた。ある日奥さんとの旅行を計画した時、既存のガイドブックでは知りたいことが載っていない、載っていても実際がどうなのかわからない、と不満を持ち、実際にその地を訪れた人の口コミがまとまっていれば便利なのに、とぼやいた。すると奥さんが「ならあなたがそれをやったら」と背中を押して、起業を決意したという。

難航したのは、旅行サイトとのパートナーシップだそうだ。エクスペディアに「トリップアドバイザーから来て旅行が成約したら、紹介料をください」と持ちかけようとしたが、反応は「うちの名前を貸してあげるのだから、むしろうちがお金を貰うべきだろう」と全く逆。そこでカウファー氏は、まず数ヶ月間試してみて、その結果を見て判断してくれと大見得を切る。必死の努力と相俟って、これが成功し、どんどん売上もパートナーも拡大していった。

新しい機能は、試行錯誤で進めていく。当たると予想して外れたり、予想外のものが人気を集めることなどざらで、臨機応変に即興的に意思決定をしていくことが重要だ。競合はいくつか現れているが、競合を気にするよりも顧客のことを理解することに専念している。顧客が何を欲しがっているかを探り続け、いかにトリップアドバイザーに居ついてくれるかが最も重要だと語っていた。


決して驕らず、真面目さとユーモアを忘れずにいるカウファー氏は、あまりCEOには見えない。だがその柔軟さと人懐こさが、この成長企業を率いる人徳なのだろう。常に試行錯誤し続けて、うまく行った偶然が続いたことが成功につながったのだ、と言わんばかりの謙虚さは、成功を呼び込むための努力を容易に窺わせるし、また謙虚になれるだけの自信を感じさせる。

ガースナーやウェルチといった成熟した大会社のカリスマ経営者から学べるものも多いが、カウファー氏のようなしなやかなタイプのスタートアップ経営者の成功談は、非常に刺激になった。ビジネスモデルの面白さと共に、実感を持って学べるものが多く、なかなか色々と考えさせられた。


* たとえば、東京の英文ページを開くと、お勧めホテルの1位にThe Prince Park Towerが出る。ここで"Check Rate"をクリックすると、Expedia、Orbitz、Hotels.com、agataの4つの旅行代理店サイトが立ち上がる。トリップアドバイザーはこれらの価格比較を直接行わないが、ユーザーは容易に比較できるため、事実上アグリゲーター的役割も果たしている
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by flauto_sloan | 2009-03-09 22:13 | MITでの学び(MBA)
Global Economic Challenge- 異文化間で、異なるものと同じもの
フォーブズ教授の"Global Economic Challenges" の授業で組んだチームは、4人までで2大陸3カ国以上の混成チームであるのが条件だったのだが、この多様なチームから学んだことは多かった。私のチームは私(日本)、Mさん(アメリカ)、Iくん(エジプト系アメリカ)、Sくん(南アジア)というチームだった。

政策に対する許容幅の違い
マクロ経済の授業なので、Aggregate Demand - Aggregate Supplyモデル、IS-LMモデル、BB-NNモデルなどを使って、経済危機にある国の置かれた状況を理解し、どのような金融・財政政策を取るべきかを議論する。

1回目の課題では、好調だったロシアが2008年以降どのように経済が危機的状況に陥ったのかを分析し、どうやって経済を好ましい平衡状態に持って行くのかを検討するものだった。そこで取りうる政策は、なかなかありきたりのものしか出てこない。アメリカ人は特に、踏み込んだ財政政策があまり好きでないようだ。

だが対象国はプーチンが院政を敷くロシアだ。本当に経済を回復し、強いロシアにするならば何をするだろうか。レバーの一つに人口があり、生産レベルを維持したまま人口が減れば、好ましい平衡状態に収束し易い。グルジア侵攻や、貧しい地域の分離・独立は人口減少のために有効な政策なのではないか、と言ったところ、さすがに黙殺された。

これは極論だったが、全体に社会主義的である日本の国民として想像しうる政策は、アメリカ人からすると介入しすぎであり、個人や市場の自由を阻害すると受け取られた。柳澤教授が述べていた事前主義の日本と事後主義のアメリカ、社会や集団を重視する日本と市場と個人を重視するアメリカ、という違いを感じた

空気と村八分
逆にアメリカと日本も実は同じだと感じたのは、チームには読むべき「空気」があり、それを読めないと村八分になる、というものだ。日本特有の文化のように思われがちだが、ハイフェッツ教授のリーダーシップの授業でも学んだように、これは人間本来の行動規範であり、文化による程度の差こそあれ、共通だ。今回のチームでは、それを改めて感じた。

ひとつのケースとして紹介する。
    1回目の課題の提出直前、S君が最後の手直しをすると言ってきた。答案が返ってきてわかったのは、S君は提出直前にこれまでの議論を1から覆す大変更をし、しかもそれが間違っていて(当初のチーム議論が正しかった)、チェックプラスを逃してしまった。

    チームの努力を勝手に無駄にするS君の行動は、我々の信頼を失わせるに十分だった。もともとミーティング中に明らかに貢献していない(恐らく課題を読んできていなかった)ことで十分、場の空気が彼のチーム内のポジションを一番低いところに押しやっていた。最後の手直しを彼に任せたとき、チームの期待は校正とロジックの甘いところを埋めることであり、一から書き直すことではなかった。

    2回目の課題に向けたミーティングの日、彼は風邪を引いたので、スカイプで参加したいとメールに書いてきた。誰も返事をしない。ミーティングの時間に集まった3人は、誰もS君を呼ぼうとしない。彼は村八分になっている、という空気をひしひしと感じたし、私も彼の行動に納得がいかなかったので、結局3人で議論を進めることに。

    補足ミーティングにはS君が来たものの、彼の意見は発言時に既に割り引かれてしか受け入れられない。さすがのS君も気づいたらしく、だんだん発言が少なくなっていく。議論の後、今回は私がレポートの論旨を構成した。私の答案に対してS君から反論はあったが、存在感を増すための反論のための反論でしかなく、他の二人の支持も得られず、結局今回も彼の貢献度は非常に少なかった。
私が言いたいのは、S君を非難することでは全くない。4人の異文化のチームであっても、チーム内で生まれる空気というグループ・ダイナミクスがあり、そこで期待された平衡状態を超えてしまう「やり過ぎ」を侵した者は、空気によって無力化されてしまう、という構造が短期間で見事に発生するのが非常に興味深かった。

ハイフェッツ教授クラスのグループに比べ人数が少なく、また課題に回答するという比較的シンプルな目的しかなくても、そこで学んだものは再現された。かなり抑圧的な空気の中で私はレポートをまとめるというリーダーシップを執ってみた(「介入」した)のだが、S君の反論は悲しいくらいに予測可能であり、他の2人の私への支持もまた、予想通りであった。


一人ひとりの考え方や、価値観は異なっていても、集団の置かれた環境や構造によって、どのようなダイナミクスが生じるのかはある程度予測可能である ― これこそマクロ経済に通じる学びではないか。授業の主題も、これまでに起きた幾多の経済危機から学んだ構造と、今回の金融危機は本質的には変わらず、未曾有であり未知であると過剰反応することなく、正しい判断をすることにある。個別の企業や社会・文化を捨象してマクロ視点でモデル化するからこそ、再現性のある構造が見えてくる*

まさかフォーブズ教授が、チームワークからこれを学ぶことを期待していたとも思えないが、やはりシステムが重要なのだ、と気づくチーム経験だった。

* この考えは、システム・ダイナミクスのスターマン教授も、先日講演したマートン教授も強調している
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by flauto_sloan | 2009-03-07 21:39 | MITでの学び(MBA)
Forbes教授、ホワイトハウスで奮闘す
c0131701_5285478.jpg今学期で一番面白い授業、"Global Economic Challenges" を教えるクリスティン・フォーブズ教授が、CEA (Council of Economic Advisers)の最年少メンバーとして、ホワイトハウスにいた頃のことを話す特別セッションを行ってくれた。


CEAがどのように機能しているのか、そして大統領や政府首脳にどうブリーフィングを行うのか、そしてブッシュやチェイニーの反応はどうだったか、などのアメリカの舞台裏を、非常に明快な語り口で、ユーモアを交えながら覗かせてくれるとあって、教室から溢れんばかりの大人気だ。
いくつか興味深かった発言を書き留めておく。
「ブッシュ大統領は、頭がいいナイスガイで、問題点をよく理解している。でもカメラの前では硬直してしまうせいで、実際とは異なる、誤ったイメージが描かれてしまった。
彼はいつでも、米国のために何が正しいかを考え、よく働いていたわ。でもポリティカル・アニマルでは決してなかったし、確かに彼自身テキサスでバイクを磨いている方が、大統領の仕事より好きだったと思う」

「チェイニーはとても頭が切れて、口数は少ないけれども、何か喋る時はいつも鋭い質問だった。コンディ・ライスは驚くほど頭が良くて、チャーミングで、人の緊張を解いてしまう才能があった。そして彼女の発言は、データや正しい現状理解に基づいていて、非常に濃い内容だった」

「大統領の諮問機関は複数あるけれども、それぞれが分析を基に提言をし、意思決定は当事者のいる場で最終検討をして決められる。ただオバマ政権では取りまとめ役のNSCにサマーズがいて、CEA議長が押しの強くないローマーなので、うまくバランスが取れるか心配」

「経済面でブッシュ政権の失敗は、鉄鋼に関税をかけたこと。ブッシュ大統領は自由貿易主義者だったのに、逆のメッセージを送ることになってしまった。議会をなだめることに必死で、どんな反発がくるかを過小評価していたのでしょう。
安全保障やイラク政策は、経済学者としては正しかったとはいえないけれども、ホワイトハウスで議論を尽くすと、経済学的に誤っていても正しい判断かもしれない、と最後は納得した。ホワイトハウスは経済的正しさと政治的実行可能性を、常に考えないといけないから、それでいいのです」
先日のバーンズ教授の講義でも感じたが、ブッシュ政権は評価されてもいい政策をしており、メディアによって悪い方にばかりイメージを歪められているのかも知れない。イラク戦争の決断も、当時のブッシュが置かれた状況と情報の中で、本当に誤った決断だったのだろうか。ブッシュ政権が無能の代名詞になったために、ブッシュのせいでないものも彼らの失策になっているのではないか(ちょうど今の麻生政権のように)。

彼らがブッシュ政権にいたことを差し引いても、あの8年間を正しく再評価する必要はあるだろう。世界最高レベルの優秀なスタッフと妥当な組織を以ってしても、リーダーの能力で国家が危機になるのであれば、これは組織論上の重要なケーススタディになるだろう。


不思議と、この2年間で日本の自民党と米国の共和党への支持が、自分の中で高まった(元が低かったというのもあるが)。それこそ友人や教授など特定個人への私のロイヤルティーの所為かもしれないが、多様な価値観や意見の幅を常に考えることで、メディア等による偏向を取り除いて考えることができるようになってきたのかもしれない。
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by flauto_sloan | 2009-03-04 04:45 | MITでの学び(MBA)
破壊的イノベーション
今学期楽しんでいる授業に、James Utterback教授の「破壊的イノベーション」がある。アッターバック教授は『イノベーション・ダイナミクス』や近著『デザイン・インスパイアド・イノベーション』で知られるイノベーション論の大家だ。MITらしく、イノベーションを科学的アプローチで解明しようとしていて面白い。

大御所アッターバック教授
アッターバック教授はHBS学部長のキム・クラーク教授が若いころから共同で働き、、『イノベーションのジレンマ』を著し、昨年はスローンで短期集中講義を行った(ブログ未収録)HBSのクレイトン・クリステンセン教授や、スローンきっての人気教授(来年からHBSに移籍するそうだが)、レベッカ・ヘンダーソン教授らはクラークを通じた孫弟子のようなものだ。

役者が違うと思わせるのは、そのクリステンセン教授の理論の批判だった。
私がMITの学生だったとき、ある教授が授業のたびに「直線を引くときは、必ず3つ以上のデータポイントが必要だ」と口酸っぱく言っていた。
クレイの理論はこれに似て、結論を導くためのデータが、期間・業界ともに少なすぎる。拡大解釈を見事なレトリックで納得感を持たせているが、イノベーションの事例でクリステンセンの理論に合わないものはいくらでもあり、一般論とはとてもいえない。
アッターバック教授は、豊富な事例(新しいものだけではなく、19世紀のボストンの氷産業といったものもある)とデータ分析とで、イノベーションの仕組みや現象について、何が言えて何が言えないのかをきちんと切り分けて議論していく。


アバナシー・アッターバック理論
アッターバック教授と共同研究者のウィリアム・アバナシー教授(故人)のイノベーション論 "Utterback-Abernathy model" は非常に洞察深い。イノベーションには、流動期、移行期、固定期の3つのフェーズがあるとする。流動期は多くの企業がその製品・技術に流入し、多くの商品が生まれる。その中でドミナント・デザインが生まれると、プロダクト・イノベーションによる移行期へと移り、ドミナント・デザインの製品によって市場が急拡大する。やがて市場や技術が(一見)飽和すると、固定期に移り、プロセス・イノベーションによるコスト削減や、サービスへの転化が行われる。こうして市場規模はSカーブを描く。

そこで新たな機能を持った新製品が登場し、その新製品がドミナント・デザインを得ると市場が侵食される。旧製品はこの時、対抗するために往々にして既存技術に新たなイノベーションを生み、寿命を延ばすのだが、やがて新製品に市場の大部分を奪われることになる。

このメカニズムは組立産業とプロセス産業で少々異なり、プロセス産業の場合はプロダクト・イノベーション以上にプロセス・イノベーションが破壊的である。プロセスのいくつかのステップをまとめる技術が生まれると、コストは劇的に低下し、市場を席巻する。

クリステンセン教授が、破壊的イノベーションはシンプルなアーキテクチャーで、低コストなものであり、性能過剰な旧製品をローエンド市場から侵食すると理論付けたのは、一部の組立産業やプロセス産業では成り立つだろう。だがアバナシー・アッターバック理論では、低機能や低コストを破壊的イノベーションの要件とはしない。この二つの理論の差と、そこからの意味合いを考えるのが非常に面白い授業だ。


下着から視力矯正へ
この授業ではある業界を取り上げて、チームを組んでどのようなイノベーションが生み出され、業界内にどのようなダイナミクスをもたらしたのか、将来どのようなイノベーションが起こりうるのかを調査する。そのために、個々人で興味ある業界を取り上げて、一人2分でクラスに向けてセールスピッチを行い、人を集めた。

私は仕事でさんざんハイテク業界を取り扱ったので、電機やIT産業ではなく、クラスで他に誰も取り上げないであろう下着業界を選んだ。下着を馬鹿にしてはいけない。MITのイノベーション論の教授、エリック・フォン・ヒッペル教授が、私の発表の次の日の授業で次のように語ったそうだ。
「人類の進歩に最も貢献したのは、木綿の下着だ。
ヨーロッパの知識階級が着心地のいい下着を身に着けるようになって、肌ずれを気にせず集中力を上げることができ、多くの発見に結びついた*1
この発表のお蔭(?)で、クラスの人と話すと「ああ、下着の人か」と言われるようになったが…

結局チームは、視力矯正産業に加わった。眼鏡、コンタクトレンズ、視力矯正手術(レーシックなど)と、馴染み深い進歩を遂げてきた業界だ。破壊的イノベーションが生まれながら、古い製品が生き残り続けているのは何故かを考えるのが面白そうだ。

最終学期になって、ようやく日本にいた頃の問題意識である、イノベーションとは何で、それはどのような人間の活動メカニズムから生み出されるのか、という疑問に立ち戻った。色々と考えていきたい。


*1 中世ヨーロッパはコルセットなどの硬くて窮屈な下着を身に着けていたが、産業革命の頃にミュール等の柔らかい下着が生まれて普及した。機能やデザインはその頃にだいたい固まり、それ以降は素材による漸進的な発展が行われた
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by flauto_sloan | 2009-02-23 23:23 | MITでの学び(MBA)
レスター・サロー大いに吼える
2代前のMITスローンの学長、レスター・サロー教授の「経済・政治に関る課題」という授業を聴講している。現代のアメリカおよび世界が抱える諸問題を、経済学の観点で議論する授業だが、教授があまりに傲岸不遜なので面白い。

サロー教授といえば『資本主義の未来』『知識資本主義』などを著したり、ジョンソン大統領の経済諮問委員会のメンバーだったりと、世界的に著名な経済学者である。そんな彼の発言は、経済学者一流の理性的思考故か、個人的性向か、高齢ゆえの頑固さか、非常に傲岸に聞こえて面白い。

ちょうど昨年一度聴きに行った、ケネディスクールのサマーズ教授(現米国家経済会議委員長)のグローバリゼーションの授業と内容も似ていて、傲慢な経済学者であるところも似ている。世間一般で言われているような尤もらしい意見とは対極の視点が聞けるのが非常に面白く刺激される。

先日は気候変動がテーマだったのだが、教授の数々の過激な論旨に、サステナビリティへの関心の高い生徒が授業中に激高していった。例えば次のような発言が物議をかもした。
「アル・ゴアは経済学者ではない。経済学者ならあんな本は恥ずかしくてとても書けない。彼は唯一のノーベル賞とオスカー賞のダブル受賞者だが、ノーベル賞は当然経済学賞じゃないし、むしろオスカーの方が、彼がお伽噺の語り手だということをよくわかって選んでいるんじゃないか」
「今手を打たないと50年後に大問題が起こるというが、50年後の被害は現在価値に直すとゼロだ。そんなもののために金を使うわけにはいかない!!」
「直近の地球の平均気温は予測よりも寧ろ低下している。しかもボストンに至っては寒冷化が進んでいる! 少しくらい暖かくなった方がいいだろう!」
「海水面が上昇したからどうだっていうんだ。モルジブは沈むが、他にもいいダイビングスポットは世界中にいくらでもある。ケープコッドも沈むが、暖かくなったカナダはいい移住先だぞ」
「温暖化でマラリアが北上するというが、別に不治の病ではないのに、なぜそんな大騒ぎをするのだ。むしろ農作物の収穫量が増えると見られており、便益も十分大きいのではないか」
勿論ここで挙げたような説には異論があることも重々承知での発言なのだが、こう一貫して通説となりつつある論と逆の論陣が張られると、自分の考え方を相対化できて、視点が広がる。

直前のフォーブズ教授の授業とは全く趣が異なり、補完しあうので楽しんでいる。


(参考) 教授の少し前の講演の様子
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by flauto_sloan | 2009-02-17 09:09 | MITでの学び(MBA)
イスラエルへ
ベネズエラ旅行は、紆余曲折を経た結果、最後まで行く気だった4人での旅行も諦めた。リーダーが突然参加できないこととなり、ロジやコンタクト先の確保に大きな支障が生じ、また残り3人のモチベーションが維持できなくなり、そしてこの3人の目的意識の違い(私とチェリストの友人はエル・システマの調査を目的としていたが、もう一人はギアナ高地観光が目的)が顕著になった。

また、NECに対してコンサルティングをしようとしていたのだが、既に同じ活動をしている人がいて、我々独自の価値提供が難しいと判明したことも、チームのモメンタムを失わせた。こうして、非常に残念ながらベネズエラ旅行を中止することにした。

こういう少数のプロジェクトは、参加者の興味とコミットメントレベルの違いをどうまとめていくか、そしてモメンタムをどう維持するのかが極めて難しい。特に政情不安な途上国でのプロジェクトとなると、リスク以上のリターン(経験、社会的意義、ネットワークなど)を参加者が信じ続けられないと瓦解してしまう。なぜだかこの2年間、興味があった開発分野でのプロジェクトは結局経験できなかった。縁がなかったのか、私にそこまでの覚悟がなかったのか。

こうして春の予定が急になくなったので、まだスポットが空いていたイスラエル・トレックに参加することにした。アメリカ(特にNY)にいると、ユダヤ人に非常に興味を持つ。またスローンには多くのイスラエル人がいて、彼らのハイテク分野への強い関心と専門技術を見ていると、あの国はどうやってここまでハイテク産業を発展させたのか非常に興味を持った(テルアビブはハイテク産業のクラスターだ)。

他にも最近のガザ紛争、イスラエルの選挙にも興味を持ち、さらに莉恵さんのイスラエルの記事にも刺激された。タイミングとしても非常にホットだ。日本から行きにくいことも動機となる。

ベネズエラは本当に残念だが仕方がない。諦めてイスラエルを楽しむことにする。
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by flauto_sloan | 2009-02-16 13:16 | MITでの学び(MBA)
ベネズエラ・トリップの中止
ベネズエラへのスタディ・トリップがキャンセルになってしまった。この上なくショックだ。

春休みに、スタディー・トリップでベネズエラに行く予定だった。スタディー・トリップはスローンの公式イベントなので、教授が同行し単位も認定される。半分は遊びだが、半分は真面目だ。申し込みにはエッセイを提出せねばならず、真面目なコミットメントが求められる。

そのトリップの目的は、エル・システマの調査だった。エル・システマはこれまで何度か紹介したが、ベネズエラのNPOであり、音楽教育を通じて貧困の解消と人的資本の向上を図るプログラムだ。

エル・システマ
ベネズエラの首都カラカスは、大戦後どんどん荒廃し、犯罪の多い危険な都市となっていた。スラム街の子供たちは、ギャングに入り、銃を持ち、麻薬を吸い、そして生きる目的も見つからないまま、傷つき殺されていた。貧困は再生産され、希望のない街であった。そこで経済学者のJose A. Abreu氏が、エル・システマ(El Sistema: The System)というプログラムを立ち上げた。

子供たちに楽器を与え、音楽を教え、オーケストラで合奏をさせる。子供たちは音楽の楽しみを知って心が豊かになる。楽器の腕が上達することで自尊心をもち始める。そしてオーケストラで他人と協調することを学び、社会に出ても適応できる素地を作る。

開始してもう25年ほどになるのだが、エル・システマは目覚しい成果を挙げた。カラカスの犯罪発生率は低下し、犯罪に手を染めず就労できる若者が増えた。カラカス以外の都市にも展開し、今ではベネズエラ中にユース・オーケストラがある。優れた演奏をする子供には、選抜によって上位のオーケストラに参加でき、頂点にあるシモン・ボリバル・ユースオーケストラは、世界一のユースオーケストラと認められている。昨年末に来日公演を果たし、聴きに行った母親がいたく感激していた。私も聴きたかったほどだ。

さらには、このプログラムがなければ埋もれていたであろう才能も発掘した。その代表が、今世界で一番注目されている若手指揮者のギュスタボ・デュダメルだ。もこもこの天然パーマと人懐っこい顔立ちという風貌も人気だが、彼のエネルギー溢れ、即興性に満ちた解釈は、聴いていてとことん楽しい気持ちになる。昨年一度聴いたところ、発展途上だが魅力的な指揮者だと感じた。

アメリカでのエル・システマ
ベネズエラでの成功を受けて、同じく犯罪や貧困に悩むアメリカの都市が、同じプログラムを展開し始めた。ここボストンでも、貧困地区サウス・ボストン(MITが舞台の映画、『グッドウィル・ハンティング』の主人公はここ出身)に対し、ニュー・イングランド・コンサバトリー(NEC)が中心となってエル・システマを展開している。一定の成果は挙げているが、ベネズエラとアメリカとの間の文化や社会構造の違いも考慮すれば、改善の余地があるのではないかと思われる。

スタディ・トリップ
今回のベネズエラのスタディ・トリップでは、まさにこのエル・システマを調査するはずだった。NECをクライアントとして、カラカスとボストンでエル・システマの関係者(音楽教師、生徒、生徒の保護者等)へのインタビューやその他調査を行い、何がベネズエラで上手くいく要因で、それがどこまでボストンで展開可能なのかを見極めることが目的だ。

参加者は十数人だったが、先日のタレント・ショーで競演した二人もいたし、皆かなりやる気だった。それが突然の中止決定だ。キャンセルする参加者が相次ぎ、授業の最小催行人数を割り込んでしまったからだ。もともと安全上の理由から人数はだいぶ絞り込んでいたのだが、それが裏目に出たようだ。また、ベネズエラ人の巻き込みが不十分(オーガナイザーに一人のみ)なのも、不安要素になっていたようだ。結局、学校が「この人数に教授二人を付けられないし、スポンサーもできない」と通達してきた。残念で仕方がない。

りごぼん教授やNEC学長、ベン・ザンダーなどゲスト講師も招く予定だったのだが、それもキャンセルとなってしまった。

ベネズエラにコミットしたため、同じ時期に開催されるインド、イスラエル、トルコへのトレックには当然申し込んではいない。今からだとウエイトリストなので、申し込んでも行けるかどうか微妙だ。

だがそれ以上に、将来エル・システマ的な、音楽による教育・人的資本増強のプロジェクトを行いたいと思っていたので、要となりうる大きな経験をする機会を失ったのが無念だ。

有志のトリップ
この決定を受けて、最後まで残った何人かで、学校のサポート無しにベネズエラへ行こうかという話が持ち上がった。既に通訳や交通は手配し始めていたので、それを利用しようというものだ。まだ検討中なのでどうなるかわからないが、ここまで来たらなんとかやり遂げたい。
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by flauto_sloan | 2009-02-06 01:08 | MITでの学び(MBA)