MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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無用の用たるMBA
MIT Sloanの昨年の受験者数が、前年比28%も増加していたそうだ。他のビジネススクールも似たような状況で、HBSは16%の増加だ。景気と応募者には強い相関があるという。不況による雇用環境の悪化、2年間ビジネスから離れて不況をやり過ごそうという心理、不安定な時代での資格への期待、などが入り混じった結果だろう*1

こうした緊急避難的な役割は一時的なものだろうが、中期的には、MBAの役割が変わってきているのではないか、と思う。

MBAというと上級職業訓練学校的なイメージがある。企業幹部候補を養成すべく、戦略、ファイナンス、マーケティング等の知識と、意思決定を鍛錬するケーススタディ、将来の布石としてのネットワーキングを体得する。そうしてコンサルティングや投資銀行などの華々しい業界へ転職していく… 勿論今でもそういう役割は大きく、この2業界に進んでいく人はSloanで42%と多数派だ。

日本では、MBAが必ずしもプラスの評価を得るとは限らない。こと現場を大事にするだけに、ともすれば「役に立たない知識ばかり勉強する」と揶揄され、「ケーススタディで机上の空論を戦わせる」と冷やかされ、「結局ネットワーキングさえ得られれば、毎日ゴルフ三昧」と蔑まれることもある。

まあその見方が絶対間違っている、とは言わない。何をMBA留学の成果とするのかが、学校と個々人の目的意識に帰着するのは昔も今も変わらない。

その学生や学校の意識と動き方が、時代の流れに合わせて変わってきているように感じる。学生はより公共心を持ち、学校は不確実で変化の激しい未来に適応するための機関になっている。


戦後冷戦下での西側諸国の経済成長、冷戦崩壊後の熱狂とグローバル化・IT化による拡大・前進志向。この頃は、MBAを取ってCEOになるという期待があった。

だが9.11があり、グローバル化に反動が起こり、IT化の功罪が論じられ*2、更にエネルギー問題と気候変動が看過できなくなり、駄目押しのようにサブプライム問題から各国で不況が起き始めている。世界の平衡の揺り戻し期であろう。将来は不確実で不安なものとなり、目の前ですら明るい材料がない。

流石にそんな中で、MBAが薔薇色の将来への片道切符だと考えている人は少ない。この2年間で何が重要か、何が今後も残り、何が消えるのかを見定めている。

学校側も、複合的で変化に対応できる視点を養えるよう、プログラム変更や学部長の変更があちこちで見られるように映る。サステナビリティへの関心の高さ、人生における幸福についての議論など、従来のビジネスの価値観とは異なるテーマが、カリキュラム内外に増えている。

これまで以上に定説や答がなく、アイディアの賞味期限と適用範囲が短く狭い世界になるのだから、自ら解を作り出すための基本方針やスキルを学校は教えようとし、学生は新たな世界へ適応すべく、友人と議論し学問を学ぶ中で研鑽を積んでいる。


その一つの結果が、卒業後の進路で non-profit/government を選ぶ人数の増加にあると思う。MIT Sloanでは2006年卒業生では僅か0.4%しかいなかったが、それ以降1.7%へと増加している。HBSはさらに多く、2002年までは1-2%だったのが、2003年以降は3-4%で推移している*3

全体の人数としてはあくまで少数派だし、もともとnon-profitの人を入学させたのか、在学中に転身したのかはわからない。

だが一つ言えるのは、これら使命感・公共心に燃える人は、周りを熱くしていく。私のチームにも一人いるが、話すといつも刺激を受ける。資本主義のレールに乗るためだけではなく、Yunus氏が卒業式で語ったような、別の価値観で世界を変えるための準備期間としてMBAの2年間を過ごしている。基本ツールとしてのビジネスの考え方を学びつつ、周りの学生の価値観も高め、賛同者を増やしていっている。


Social Entrepreneur (社会起業家) のインキュベーターとしての役割、そして多様な価値観を持ったビジネスリーダーの養成所の役割を強化しようと、徐々にだがビジネススクールは変容しようとしていると感じる。いつか日本でも、MBAが無用の用として認められる日が来ると期待したいし、我々が世界をより良くすべく努力していかねばならない。

私はいずれ非営利へ進むのかどうかはまだわからないし、この夏予定していた途上国での活動も結局、諸事情により諦めてしまった。経験という点では充分に機会を活用していないかもしれないが、お陰で将来について思索する時間に恵まれた。これもまたMBAならではの楽しみであり、人生における無用の用だ。

*1 今年からMBA留学する友人や後輩も、受験にはなかなか苦労していたようだ。今年度は不況が本格化したため、受験倍率はさらに上がることもあろう。
*2 私はグローバル化もIT化も否定しない。ただ過剰適用と過剰反応を心配するのみ
*3 当然給与は月$3,000程度と低く、MBAの学費と2年間の機会損失を「投資」と捉える人には、極めて低いROIだ

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by flauto_sloan | 2008-08-07 23:21 | MITでの学び(MBA)
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