MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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大学にて
c0131701_1211951.jpg高校以来の大親友と会うため、彼がいる東大を訪れた。久々に訪れた東大は、創立130年を祝っていた。だが遠く昌平坂学問所から連なる歴史以上に、最高学府が誇りに思っているのは、ついに東大に訪れた科学分野でのノーベル賞であったようだ。

c0131701_1213684.jpg先日ニュートリノの項でも触れた、東大初の理系ノーベル賞受賞者、小柴教授の名を冠した「小柴ホール」が建てられ、赤門近くにはスーパーカミオカンデに使用されている光電子増倍管の実物が展示されている。嬉しさと誇りが伝わってくる。

大学も独立行政法人化で、予算獲得や研究成果の社会的・経済的意義の向上、そして何より、より優秀な学生獲得へ関心を深めている。

MITという世界有数の理系学府から見て感じる(特に数値データ等に基づくものではない)のは、日本の大学の競争力の低さである。日本が良い研究をしていない訳では決してない。が、Made in Japan の優れた工業製品が世界シェアで劣後するように、日本の大学も国際競争では、構造的優位性を確立した米国の大学に負けているのだろう。東大が世界ランキング何位だとか、日本は高校までの知的水準は世界トップクラスだが大学で逆転されるだとか、これまでも様々に議論がなされていた。

だが何より、優れた研究成果を生み出す仕組み・仕掛けで負けている。荒っぽく言うと、研究成果というアウトプットは、平衡論的には、インプット - 優秀な学生および新規アイディア - と、プロセス - より高い確度でより価値の高い結果を出す仕組み - によって決まる。
さらに速度論的には、プロセスの循環(インプット→プロセッシング→アウトプット: 次のインプット→プロセッシング→…)のスピードは、反応を促進する触媒や、熱 - 研究者の意欲 - によって決まる。
そしてある研究成果が他の研究へ次々と影響を及ぼしていくと、連鎖反応が起き、イノベーションがイノベーションを励起する。
MITのあるケンブリッジ地区は、まさにそのようなイノベーションの連鎖反応が起きうるような仕組みが出来ているように見える。先人の知恵と苦労の賜物であるが。


インプットを高める優秀な留学生獲得競争では、これまでずっと米国が最強で、日本は劣位にある。今後は中国やインドの存在感も増すだろう(特にインドのインド工科大学IITは、MITやCalTechにとって脅威となるだろう)。

日本語で大学院教育まで行える驚嘆すべき教育インフラは、日本人研究者(及びかつてはアジアからの留学生)の質と量の増加に貢献したが、逆に言語障壁となって、留学生の取り込みには不利に働きうる。東大は大学院の一部でTOEFLを入学試験に取り入れ、新たな試みを行っている。所謂「世界標準」により、少なくとも世界の学生の出願対象の俎上に乗る確率は上がるだろう。


そしてボストンでは、情報を集約し、より高いアウトプットに繋げる仕掛け・仕組みが整っている。ハーバードとMITを始め、様々な大学や研究機関がクラスターを形成し、情報が公式非公式に共有される。研究者は専門の周辺領域を俯瞰できるまでの知識を得うる。自分が知らない課題にも、大ボストンのどこかにエキスパートがいるので、協業できれば解決しやすい。

さらにこのイノベーションを加速させる仕組みが出来上がっている。MITの100Kコンテスト*などの起業家精神を刺激する仕組みや、VCやエンジェル等投資家へのアクセスの容易さ、そして研究成果を企業活動へ結びつけるブリッジング機能(メディアラボなど)がある。これらが人口400万の地域に集約され、凄まじいスピードとパワーで知的生産を促進している。

こうした、平衡論的にも速度論的にも優れた技術クラスターは、ボストン、シリコンバレー、バンガロール、ザクセンなど世界で発生している*2。豊田/名古屋も優れたクラスターだろう。だが東京は都市が巨大過ぎるためか、波及効果が大きくイノベーションを加速するようなクラスターが充分育っていないように思える。


では日本の教育機関がどうすべきか、教育の専門家ではないので上記程度の分析から提言するのはおこがましい。
ただ、より高いアウトプットが生じる平衡状態へ移るには、インプットとして質・量共に飽和している日本人に加え、優秀な留学生を惹き付けることが急務だろう。速度を速めるには、物理的な人的交流が進む仕掛けの埋め込み(具体策には創造力が験される)、触媒のようにアイディアの共有・利用を促す知的所有権の枠組みや、より実務的な企業の巻き込みなど、知的生産が早く成果を出すための障壁を押し下げる仕組みが必要だろう。


ボストンなど世界のクラスターから学べることもまだまだ多いだろう。小宮山学長が押進めた東大の改革を、後任学長がどう継続していくのかは興味深い。
ノーベル賞受賞者を記念するオブジェや建物が、今後増え続けることを切に願う。


* 学生が研究成果を活かしてビジネスモデルを考案し、競争して賞金の10万ドルを目指すコンテスト
*2 クラスターの形成要因は様々に言われる。中心となる大学や企業の存在は必要条件であろうが、他にも「住みやすさ」なども要因となりうる(バンガロールは住環境のよさでエンジニアが自然と集まり、コミュニティが出来、クラスターへ発展したといわれる)

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by flauto_sloan | 2008-01-25 22:18 | MITでの学び(非MBA)
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