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MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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Law & Order
渡米して以来、最もよく観るテレビ番組は "Law & Order" という犯罪ものだ。このドラマは1990年に始まり、NYを舞台に、犯罪発生から捜査、立件、裁判、そして陪審員による評決まで、犯罪に関わる一連の流れを最後まで取り上げており、その中で奮闘する刑事や検察官を主人公にしている。徐々に人気が高まり、現在では殺人などの重大犯罪を取り扱う "Law & Order: Criminal Intent" と、性犯罪を取り扱う "Law & Order: Special Victims Unit" がスピンオフし、3シリーズで行われている。

Criminal Intent はより刑事ドラマに近くなってしまい、裁判まで描かれることは殆ど無くなったが、Special Victims Unit は未だに裁判まで描かれ、法廷で意外な事実が分かったり、陪審員による評決での逆転があったりと、単なる刑事物に納まりきらないダイナミックなドラマがある。

ストーリー自体も、アメリカが抱える様々な課題(人種差別、同性愛者差別、生命倫理、果ては人身売買まで)を取り扱い、深く面白い筋書きとなっている。登場人物の私生活は殆ど直接的には描かれず、時折明かされる真実から性格や生い立ちを覗うのもまた興味深い(主人公の警察官が実は母親がレイプされて生まれた子供であったり、別の警察官は連続犯罪者が実の父の可能性があったり等)。

ディテールは(恐らく)かなりリアルに描かれており、刑事と検察官がどのようなやりとり、協力をしていくのかもよくわかる。日本では聞き慣れない司法取引もよく出てくる。リアルさを追求するため、法律用語も頻出する。恐らく、訴訟社会の米国において、刑事裁判に関する国民の意識と知識(裁判リテラシーとでもいうべきもの)を高めるのに多大な貢献をしていたであろうことは想像できる。尤も、さらに訴訟社会が加速されたのかもしれないが。


妻の通うコロンビア大学*1ロースクールでは、刑事訴訟法の最初の授業で「"Law & Order" でこんな場面を見たことがあるでしょうが…」と教授が説明したほどに、人気があり広く知られたドラマである。いきおい、ロースクールに通う妻がファンになって観続け、私もNYにいる時は一緒になって観ている。サンクスギビングやクリスマスの時期には "Law & Order Marathon" と称して、一日中過去のエピソードを連続で流し続ける放送局もある。実際、10話くらい観続けたこともあった。意味を知らない単語は片っ端から妻に聞くので、おかげでcustody (親権) やplead guilty (罪状を認める) など、馴染みのなかった用語も大分覚えてきた。


日本にはこのような、犯罪に関する流れを分かり易く追ったドラマは殆どないが、いよいよ裁判員制度が導入される日本でも、国民が裁判をより身近なものと捉え、主体性・当事者意識を持って関わっていくために、このようなドラマ、あるいはそれに類するメディアコンテンツがあってもよいのではないか。実際、ベストセラー「裁判官の爆笑お言葉集」や、ゲーム「逆転裁判」シリーズなど*2、裁判を身近にする動きは最近活発化している。日本でさらに一歩推し進めるならば、テレビドラマと漫画だろうか。

もはや時代は遠山の金さんや大岡越前といった権力者側がお白洲で裁く時代でもなければ、裁判官だけが裁く時代でもない。国民が自ら裁判に関与し、無罪か有罪か、量刑はどれくらいかを決める時代を迎えるにあたり、裁判リテラシーをあげていく必要がある。


余談だが、裁判員制度の導入によって、新たなビジネスも生まれるだろう。特に考えられるのは、米国の陪審員コンサルタントに相当する「裁判員コンサルタント」だろう。映画「ニューオリンズ・トライアル」などにも描かれているが、弁護士と協力して、裁判員の思想や信条を調べて(法的な範囲での調査に加え、選定時の挙動や質問への返答を心理学・行動科学的に分析することも含む)、裁判の内容に合わせて誰を残し誰を外すかの助言をする仕事である。アメリカのノウハウを日本の文脈(社会背景や思想の広がりなど)に落とし込めるプロが何人かいれば、それなりのビジネスを行えるだろう。

誰かやりませんか?

*1 劇中でしばしば登場する "Hudson University" という架空の大学のモデル
*2 裁判を傍聴した方は知っていると思うが、日本の裁判で裁判長は木槌を持っていない。ゲーム「逆転裁判」は面白いのだが、たとえば重大事件でも裁判長が一人で木槌を打つなど、ディテールで誤解を生む要素があるのが残念

by flauto_sloan | 2008-01-21 21:35 | NYでの生活
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