MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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ベンチャーの売上を驚異的に伸ばす方法
今日のお昼には、Sales club主催で、revenue growth consultant のVictor Cheng氏の講演がありました。氏は『Extreme Revenue Growth - The Guide for Silicon Valley CEOs』という本の著者で、マッキンゼーで働いた後、スタートアップ(ベンチャー企業)の立ち上げ支援のコンサルタントをしながら、自らも3つのベンチャーを興しています。

Chgeng氏はスタンフォードの学部で経済学を、大学院で社会心理学を学んだ結果、「経済学は人々が理性的だと前提を置くが、社会心理学は理性的ではない人々を対象にする。どちらが現実に即しているかと言えば、社会心理学だった」と悟りました。この悟りが氏の卓見に結びついています。

氏によれば、スタートアップの売り上げを伸ばすために重要なのは5つの手順を正しい順番で実行することだそうです。氏のサイトにも書かれているその5つは 1) Customer, 2) The promise, 3) Distribution, 4) Product, 5) SCA (Sustainable competitive advantage) です。

1. Customer - The Person With The Money Makes All The Rules
人々が本当に困っている、苦痛に感じていること (mission critical なこと)を見つけることがまず第一です。氏が言うには、「本当に困っていることへの解決策は、誰でも喉から手が出るほど欲しがっている。欲しがっているものなら、売るのは極めて簡単だ。僕は簡単なセールスをしたい。欲しがっていないものを売ることは苦痛だからね。それにはちょっと困っている、という程度じゃ不十分なんだよ」
この苦痛の度合いを分からせるために、ある荷物のバーコード読み取り技術を開発した企業では、技術者にしばらく実際に倉庫で運搬作業をやらせて、身をかがめてバーコードを読み取る作業がいかに苦痛かを体験させたそうです。その結果、本当に必要なニーズが見え、優れた製品になったそうです。

2. The promise - Make Customers A Unique, Compelling & Credible Promise
このPromise: 約束は、ただの約束ではなく、3つの要素(Unique, Compelling, そしてCredible)が必要です。

Unique promise とは、いったいどのような利便性を顧客に与えられるのか、そこを突き詰め、具体的に絞り込んだ価値を提供できると約束することです。上記のCustomerと同じで、本当に困っているものへ、いかに独創的な解決をできるか。漠然としたりありきたりだったりしては門前払いです。

Compelling promise とは、顧客がその約束に説得力を感じなければならない、という意味です。顧客や業界や消費者がその解決策を理解し、納得できるか。氏自身も世界最初のSNS (social networking site) を立ち上げたのですが、技術的には既に完成していたものを、「機が熟す」まで10年間寝かせてから立ち上げたそうです。

Credible promise とは、顧客がその技術や商品を信用できるだけの実績や理由を裏付けた約束をするということです。人々は理性的ではないと悟る氏は、「いいものを作れば売れるはず、という考えは、買い手が理性的であれば正しい。でも現実には、理性的な買い手なんて残念ながらいない」と言います。名だたる企業での実績がありさえすれば、約束を受け入れやすくなり、競争優位に結びつきます。

この信用を、実績の少ない初めにどう勝ち取るかが、スタートアップが特に苦労するところです。そのため、まずunique でcompellingであることは大前提で、いくつかのtips (こつ)を教えてくれました*。

3. Distribution - The Most Valuable Asset of All
販売チャネルは極めて重要で、”viable” でなければなりません。チャネルと売り手の双方に、商品を売ることで、他にはないようなメリットがあるチャネルを探し出さないといけません。そして体系的に再現性のあるノウハウを蓄積していき、常に改善し続けることで成長のドライバーにすることができます。

ボストン近郊のベンチャーが画期的なソフトウェアを開発したとき、それは性能で2倍、コストで5分の1という素晴らしいものでしたが、全然売れませんでした。最初はシステムインテグレーターと組んで、彼らを販路としたのですが、わざわざ売上が減るようなものは使いたがらなかったのです。次に自分で営業を雇おうとしたのですが、売上見合いで給料が決まる営業にしてみれば、単価の安い商品は魅力がありません。結局商品は素晴らしいのに、芽吹かなかったそうです。
このような事態に陥らないように、注意深くチャネルを選び、あるいは設計していかなければなりません(この辺りが、氏のコンサルティングの最大のノウハウだと思われ、多くは語られませんでした)。

企業が拡大しても販路を十分な規模・機能で拡大するためには、再現性のあるノウハウを確立し、展開していくことが重要です。

トップセールスマンは得てして他セールスの4-5倍の売上をあげますが、そのやりかたのどこが効いているのか、なぜ効いているのかを詳細に分析して特定し、それを残りの営業・販路へ展開する必要があります。ただ単純にトップセールスマンと売り方を同じにしても効果は上がりません。何が本質なのか、プロセスなのか言葉の選び方なのか…その再現性ある要素を見つけるために、体系だち、細かいところまで捉えた分析が必要です。

ウェブで販売していても同じで、2パターンのウェブサイトを作り、1週間ごとに一方を少しずつ変えていきます(言葉、フォント、色合い、デザイン、等々)。2パターンを比較し、効果を測定します。例えば最初の一文字を大文字にすると売上が5%伸びる、といったように効果がある変化を見つけていき、毎週ひとつずつ、売上が2%伸びる改善をしていきます。すると1年経たずに売上は倍になります。

4. Product - Creating Products that are Easy to Sell
ここで初めて製品を作ることが重要になります。製品が満たすべきことは唯一つ、約束を守ることです。
約束に基づいて製品を作るので、約束さえ守れれば品質は重要ではなく、最新の技術を使っているかどうかも重要ではありません。製品設計をする人も、エンジニアである前に問題解決者でなければなりません。顧客は苦痛をなくしてくれることにお金を払うので、技術はどうでもよいのです。

技術畑出身のCEOは、「うちの製品は完璧なのに、どうして売れないんだ」とよく悩みます。これはcredible promise のところでも触れたように、顧客のニーズが分かっていないことと、目的の設定およびその前提(顧客も理性的だと仮定してしまう)が間違っています。

5. SCA - The Sustainable Competitive Advantage in High Tech & Internet Companies
成長をし続けるためには、競合や新規参入者が真似できないような優位性を築き上げなければなりません。

Amazonを例に出して絶賛していましたが、ただ本をオンラインで売るだけではなく、カスタマーレビューという膨大な資産を形成しました。さらに、投資家が猛反対する中で巨大倉庫を建て、結果的に全米へ1日で本を届けられる仕組みを作りました。現在はあらゆる本をスキャンしようとしていますが、これらの取り組みの結果は強固な競合優位性です。新規参入者はアマゾンと全く同じ戦略をとれます。でも、アマゾンと同じ財務体質、業績はとれません。
この優位性を、成長しながらいかに築いていくのかが重要だ、とのことでした。


以上、こう書き落としてしまうと一つ一つ当たり前で、誰でもやっていると見えてしまいそうです。ただ私がコンサルティングにいた頃、様々なハイテク企業を見てきましたが(その中には営業改革プロジェクトもありました)、悲しいかな日本のハイテク企業の多くも上記のことができていません。ベンチャーではなく大企業だから、という問題だけではありません。「いいものなのに売れない」という嘆き、これは典型です。

そもそもこの当たり前に見えることが、日本のハイテク企業もシリコンバレーのハイテクベンチャーも、なぜできないのでしょうか。問題の根深さとしては4段階あります。

1. 何かをしなければならないと気づいていない
2. 何かをしなければと思っていても、何をしていいかがわからない
3. 何をすべきかわかっているが、やり方がわからない
4. やり方もわかっているが、やれない

中には深刻な1のケースもあるのでしょうが、日本企業の多くは2か3かではないでしょうか(その場合4は顕在化していません)。3まで進んでいる場合、ここに書いたことを「そんなことは当たり前だ、でも実際にうちの商品でどうやったらいいかわからないんだ」と捉えるのでしょう。そこにはまさに、理屈ではない、理性的ではない顧客の姿が見えきれていないが故のフラストレーションがあります。

そこを解決するのが私のいる会社を含めたコンサルティング・ファームの仕事の一つです(つまり2から3、3から4へ行けないという苦痛を解決する)。おそらく氏のビジネスの要諦はそこにあり、そこで彼の問題解決能力や経験、実績が最大限に活用されるのだと思われます。


氏の講演はさすがに非常に面白く、例も豊富でわかりやすく、会場はぐいぐいと惹き込まれていました。ちょうど最近読んだ雑誌に、元米マイクロソフト元副社長、アスキー創業者の西和彦氏がWindowsが世界を制していく過程を語っていたのですが、改めて氏のフレームワークを頭に入れて読み直すと、なるほどビル・ゲイツは自分の才能と嗅覚とでこれらの要諦をきちんと押さえていました。講演の内容も、別段スタートアップに限らない奥深いもので、色々と考えさせられる講演でした。

* 曰く、約束は具体的で細かいほどよい。数字は小数点まで。顧客が分かり、さらに馴染みのある言葉で(例えば、医療機関が相手なら「監査」を「診察」と言ってみる)。商品の性質によっては試供品を使う。とのことです。
特に一度試したらもう離れられない製品、crack cocaine product (コカイン商品)というそうですが、であれば必ずただで配るべきです。氏が例えていたのは、コカイン入りのクッキーであれば(なんて微妙な喩えなんでしょうか…)、試供品を一口口にして去っていく人も、「あれ、なんかこれ美味しいぞ」と言ってすぐに戻って袋で買っていく、そんな製品でした(コカインを経口摂取できるかは別として)。

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by flauto_sloan | 2007-12-06 22:05 | Guest Speakers
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