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MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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ウォールストリートから監獄へ
今日の昼には、非常に特殊な経歴の持ち主であるPatrick Kuhse氏が”Ethics in Leadership”という題で講演を行いました。

氏はウォール・ストリートなどで活躍し、一代で財を成したビジネスパーソンでありながら、贈賄で有罪を受けて収監された経歴を持っています。国も家族も財産も失った過去と、なぜ倫理を逸脱してしまったのか、そこからの学びを、持ち前のユーモアと前向きさで明るく面白く語っていました。

講演内容に関しては、このリンク先のHBSでの講演とほぼ同じ(リンク先は英語ですが詳細)ですので、興味のある方はご覧ください。


氏の経歴
Patrick Kuhse氏はアリゾナ大学を中退後、ウォール・ストリートで金のために身を粉にして働き、成功しました。その後独立し、有名スポーツ選手を主な顧客とするファイナンシャル・プラニングの事務所を立ち上げ、全米に展開し大成功を収めます。

ある時、親しい知人からオクラホマ州の債権トレーダーの役職を紹介され、それを受けました。しかしその時に、上司へのキックバックを認める代わりに、コミッションの割合を法定限度ぎりぎりまで引き上げる約束を行いました。債権トレーディングは大成功で巨額の富を築くのですが、この上司とのやり取りが当局の察知するところとなり、ある日FBIの捜査を受けます。

危険を感じた氏は、家族を連れて中米へ逃げ数年間転々とした後、家族に懇願されて米国領事館へ出頭し、帰国と共に贈賄の有罪判決を受けて収監されました。

入獄中に離婚し、財産も全て失った彼は、獄中で自らを振り返って過ちに気づきました。出獄後はこの自らの経験とその教訓を、リーダー(および候補)に語ることで倫理を守ることの重要さと難しさを啓蒙しています。


教訓
非常に示唆深く、それでいてユーモアに溢れていて面白かった氏の語る教訓から、印象的だったものをいくつか。
1. 大して重要でなさそうな決断が、実は倫理を逸脱する第一歩になっている。みんながやっている、これくらいは構わない、といった理由付けで「たいしたことはない」と思っていても、その積み重ねは気が付くと大きな不正になりうる
2. 家族など、損得なしに客観的に自分へ助言してくれる人の意見には、真摯に耳を傾ける。
3. 倫理を逸脱することは、自覚している以上にダウンサイドリスクが大きい。ひとたび罪が明らかになれば、罪や責任は一気に自分に集中し、結果として祖国も家族も財産も地位も失う
4. ドアを5回ノックするのが聞こえたら、それはFBIだ


感想
私は個人的に、「天網恢々疎にしてもらさず」と覚悟して身を律しようとしていますが、氏の言うように、「これくらい大したことはない」という行動や決断をしていないか、と言われると自身がありません。常識人であれば、明らかな悪事に加担して一気に悪の道に入ることはないのでしょうが、じりじりと一歩ずつ入り込み、気が付けばもう抜けられない泥沼に入り込んでしまうことは、誰にでもありえることかも知れません。

エンロンなどの一連の不祥事以降、ビジネススクールでも ethical dilemma にどう直面し、どのような行動をとるべきかが一大テーマになっています。この問題は頭で分かっていればいいものではなく、基本的な生き方や考え方をどれだけ意識的能動的に律することができるか、という規範に拠ります。

お天道様の下を歩き続けるためにも、機会があればまた、なぜ損得勘定ができるはずの人が倫理を脱して行ったのかの生々しい話を聞き、学びを倣いたいと思わせるイベントでした。このイベントの勧誘メールの最後の一文が象徴的だったので引用します。

“Management is doing things right; leadership is doing the right things”~ Peter F. Drucker
by flauto_sloan | 2007-11-28 22:39 | Guest Speakers
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