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MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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最後のボストン日本人研究者交流会
最後のボストン日本人研究者交流会_c0131701_14283659.jpg本来は前回で終わりだったはずの研究者交流会だが、ボーゲル塾の同門の熱い官僚と熱い元体育教師の熱意に打たれ、「夏の増刊号」と題して最後の交流会を行った。

人によっては夏休みだったにもかかわらず、80人以上の大入りで質疑応答も活発で、最後に相応しい会だった。

また今回で幹事を引退する私に、他の幹事の方々が労いをしてくれ、恥ずかしながら感動してしまった。ボストンで一番オーナーシップを持ったコミュニティを去るのは寂しいが、皆で暖かく送り出してくれたのはこの上なく嬉しい。

なお、今回から研究者交流会のブログが立ち上がり、そこに要旨が掲載される。詳細はそちらを参照されたい。

日本のエネルギー政策
最初の発表は、ボーゲル塾で幹事をしてくれたケネディスクールの友人によるもので、日本のエネルギー政策についてだった。経産省の経験からの発表であり、日本の政策の不易流行がわかって面白い。

大学では化学を専攻していたので、昔から資源・エネルギー問題は興味を持っていた。1970年代の『成長の限界』の頃から、人口が増大し資源が枯渇することは言われ、政府も太陽光発電など代替エネルギーを推進してきたものの、なかなか思い通りには規模が拡大していない。10年以上前の授業で教授が、「エネルギーはもうじき枯渇する」というのを様々なデータを用いて講義した時には、そら恐ろしくなって子孫は作るまいと思ったものだ。

20世紀に入って、いま米国は驚くほどのエネルギーブームである。オバマ大統領が代替エネルギーの開発を進めると決断したことも後押しして、頭脳も資金もエネルギー産業へ流れ込んでいる。良くも悪くも、いまやバブルかと思うほどに熱い分野だ。

日本は以前から環境技術は進んでいたが、技術分野によってはアメリカに一気に抜き去られてしまうかもしれない。対抗するには、日本政府の本腰を入れた施策が必要だ。話を聞いていると、これまでは掛け声的だった新エネルギー開発が、ようやく本気になってきたようだ。

だが当面は原子力やその先の高速増殖炉が有望なエネルギー源だ。アメリカでも原子力の見直しはかなり進んでいる。ただ、日米とも原子力発電所や、さらに最終処分場の建設に関しては地元の反対運動が付き物である。住民の理解を得ることは不可欠だが、時間切れによる機会損失・国力低下や、その他の悪影響が顕著になるまで待っていても仕方がない。だが苦渋の決断を下せるリーダーは、今の日本の構造ではなかなか生まれそうにない。悲しいかな、また茹で蛙になるのだろう。


Teach for America
今年の交流会最後の発表は、夏男さんらによる "Teach for Japan の可能性" についてだった。さすがに日本の教育現場を知り、アメリカの教育現場を精力的に見てきた夏男さんだけあり、また彼一流のユーモアも素晴らしく、聴衆はぐいぐい惹き込まれた。

日本の教育は何かがうまくいっていない、とは誰もが感じている。だが何が問題であり、どんなアプローチがありうるのかは、なかなかちゃんと理解できていない。

アメリカで成功している "Teach for America" のアプローチを日本に取り入れることで、草の根的に日本の教育を変えていこうと夏男さんは考えている。Teach For America は、ハーバードやイェールの学生が、卒業後すぐに2年間を教育現場で費やし、教育について知り、また問題のある地域の教育を改善していくプログラムだ。マッキンゼーやグーグルなど、一流企業はTFAとパートナーシップを組んでいて、採用した学生がここで2年間教師として働いたあとに就職することを認めている。


夏男さんも言っていたが、日本企業の新卒志向など、TFJをそのまま導入した場合には、色々な問題が予見される。彼はそれを踏まえた上で、日本流のプログラムを考えている。だが、日米の問題の違い、また危機意識の温度差をよく考えることは必要だと感じた。

コンサルティングの経験からしても、打ち手の輸入は得てしてうまくいかない。国や文化が異なると、解くべき本当の問題が異なる。問題が異なれば、同じ打ち手でその問題は解けない。

アメリカの教育格差は既に大きく開いており、階層が事実上固定化されている。また問題地域の教育は崩壊しており、学校で麻薬の密売が行われているところもあるという。そこへ必要なのは、現場で問題解決を行える、優秀で熱意溢れる人材だ。だからこそTFAが成功している。また、既に大きい教育格差という危機意識が、アメリカの優秀な若者を教育へと駆り立てている。

だが日本はまだ、そこまで問題が集約されておらず、また危機意識も低いように思える。だからこそ悪化する前に手を打たねばならないし、見る前に飛ぶ人がいない限り何も進まないのだが、今のままではTFJで本当の問題が解けずに空回りしたり、教師・生徒・保護者の支持が十分に得られない可能性がある。

とはいえ、行動なしに問題を明るみに出すことも、モメンタムを作ることもできないので、TFJのアプローチは大きな意味があるだろう。実証済みのアプローチとしてのTFAを輸入することで、最終的には変革の流れを作ることはできるだろう。

だがそれだけでは不十分で、同時に機を熟させることも重要だと思う。それには感動と挑発が必要で、Rookiesのような感動的な教育ドラマ(私も妻も見入ってしまった)で、熱意と能力を持った教師がコミュニティを変える力を持っていると訴えることと、教育問題がいかに根深く、次の世代が貧しくなる可能性を秘めているかを過激に訴えることの両方が必要だろう。ただし文科省の批判をしても意味がなく、教師・生徒・保護者が自分自身の問題として意識するように仕向ける必要がある。誰かを指差して文句をいい批判し、誰かが何とかするだろうと期待し受身でいるだけでは、その誰かは結局現れない。

さじ加減は難しいが、TFJがひとたび上手くいけば、素晴らしい好循環が生まれる可能性を秘めている。自分の子供が小学校にあがる頃、日本の教育はどうなっているだろうか。


幹事の引退
今回を以って、正式に幹事を退いた。最後に他の幹事からプレゼントと、常連参加者の寄せ書きを頂いた。思いもよらなかったサプライズイベントで、今までの人知れぬ苦労(?)や思い出が甦り、胸が熱くなる。幹事冥利に尽きる。大きなトラブルなく運営できたのも、他の素晴らしい幹事の方々、そして参加者・発表者の方々のお蔭だ。

懇親会では多くの人に労って頂いた。卒業直前であり、ここで会うのが最後の人も多いだろう。思い上がりではあるが、自分の送別会のような気がしてきて、非常に寂しくなった。だが、ここで出会えた人たちや学んだことは、大きな成長の糧となった。こんな素晴らしい機会を与えてくれたボストン研究者交流会。幹事をして本当によかった、と心から思う。
by flauto_Sloan | 2009-05-30 14:03 | ボストンでの生活
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