MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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Staatskapelle Berlin/Boulez
カーネギーホールで、マーラー・チクルス(マーラーの全交響曲連続演奏会)が行われている。オーケストラは名門シュターツカペレ・ベルリンで、指揮者ブーレーズで、総監督はバレンボイムだ。今回は私がマーラーで最も好きな交響曲第6番『悲劇的』を演奏した。素晴らしい管楽器と、ブーレーズのドラマチックな指揮が、悲運に立ち向かう英雄をドラマチックに描き出す、感動的な演奏だった。

『悲劇的』
マーラーの交響曲の中でも完成度が高い名曲である6番は、様々な逸話とともに『悲劇的』と題されている。力強い英雄の奮闘を描いたこの曲は、クライマックスの第4楽章が極めて劇的だ。カウベルで象徴される安寧から身を奮い立たせ、運命に立ち向かう英雄。苦闘をしつつも戦いに勝利が見え、勝鬨を挙げようとするその時 - 運命が英雄を激しく叩きのめす。巨大なハンマーの一撃によって曲想は一転し、狼狽する英雄と、それを嘲笑う運命。再び勇気を取り戻し、戦いに向かう英雄を待ち構えたのは、再び振り下ろされる運命の一撃だった*1。そして英雄は静かに斃れる。

この曲を聴くたびに、抗い難い運命の切なさと、それでも立ち向かう英雄への憐れみが、胸のうちから沸き起こる。自分は何度このハンマーに叩きのめされたのだろうか、それでも立ち上がる勇気を持っているだろうか、と自らに問いかける。日本ではほとんど聴かなかったマーラーに開眼して以来、狂ったようにCDを集め、聴いていた曲だ。遂にこの6番を生で聴く機会が訪れた。

指揮者によっては最後にハンマーを追加し、英雄の最後の望みも断ち切る。一方で最後の盛り上がりを華やかに明るく演奏し、3度目には勝利を勝ち取ったのだと解釈するものもある。


ブーレーズのマーラー
シュターツカペレは連日のマーラー演奏で疲れが見えるものの、管楽器のトップの目を見張るような素晴らしさ(木管とホルンは驚くべき巧さ)と、ドイツ的な厚い響きとで、重厚な英雄像を描いている。ブーレーズはラトルのような緻密さはないが、ドラマチックな表現で物語の輪郭を際立たせる。

第1楽章は深いリズムと、ここぞという時のテンポの揺らしが格好良く、胸躍る名演だった。続く第2楽章はスケルッツォで*2、スケールが大きい響きと、地から湧き上がるようなリズム。中間部の木管楽器の絡みが、のどかな牧場を思わせて美しい。第3楽章は早めのテンポだが、オケはのびのびと歌う。だが迫りくる運命を仄めかす切なさも忘れない。

そして第4楽章。低音金管が全体の構造を際立たせる。序盤の美しさも見事ながら、英雄の戦いは力強く迫力がある。そして気宇壮大な英雄の力が存分に表現されると、それを打ち砕くハンマーが振り下ろされた。
あらゆる打楽器に重ねられたハンマーの一撃は、会場を揺るがすほど大きく鋭い。心臓に直に響いてきて、その後の弦楽器の狼狽はまさに自分のうろたえる姿であった。

再び立ち上がる英雄。その先を知っているだけに、その力強さが余計に切ない。2度目のハンマーは一度目よりもさらに鋭く、胸が痛む。

最後に満身創痍となった英雄だが、ブーレーズは寧ろ明るく力強く盛り立てる。3度目のハンマーは打たれない。英雄は最後には運命に勝ったのだろうか。生き急いでいるような盛り上げ方は、勝利か、あるいはその幻想を表したのだろうか。その疑問を残しつつ、英雄の息は絶えた。

私は、この英雄が3度目の苦難に立ち向かい、ついに人生に打ち勝ち、深い達成感と満足とを感じつつ眠りに付いたのだと感じた。いや、そう感じたい。


いい演奏で、素晴らしいオケであったが、粗さがあり華やかさはなく、誰もが文句なしの名演とまではいかないのだろう。だが私の個人的経験としては、とても意義深く、胸に去来するものがある演奏だった。

*1マーラーは当初ハンマーを3度打たせるつもりだったが、それを2回に直した。バーンスタインは3度目も叩かせている(DVDでは、3度目のハンマーを打たせるバーンスタインの苦痛の表情に心打たれる)が、この3つの運命の痛ましい打撃は、マーラー自身の3つの悲劇を表していると云われる。なお、指揮者ごとにハンマーの表現をまとめた動画もある
*2 スケルッツォを第2楽章にする版と、第3楽章にする版とがある

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by flauto_Sloan | 2009-05-12 23:16 | 音楽・芸術
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