人気ブログランキング | 話題のタグを見る

MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
MET/Levine: Ring Cycle (2/2) - 一時代の終わり
MET/Levine: Ring Cycle (2/2) - 一時代の終わり_c0131701_10495384.jpg『ニーベルングの指環』の最終話、『神々の黄昏』を聴きにいった。超大作を完結させるだけあり、地下のドワーフ族、地上の人類、天上の神々の希望と欲望、そして滅びと再生が描かれる。指揮はもちろんレヴァインであり、1989年以来20年続いたオットー・シェンクによるプロダクションの締めくくりでもある。

人気が高かったシェンクの伝統的なプロダクションの最後なので、欧米のワグネリアンが集結したのではないかと思える人気ぶりで、会場は超満員。真夏日にもかかわらず、みな正装で最後の楽劇を聴きに来ている。通しのチケットのため毎回周りは同じ顔ぶれであり、妻がすっかり親しくなった隣席の老夫婦は、20年間欠かさず『指環』を聴いてきたという。2012年からの新しい『指輪』も聴き続けるのだろう。

ブリュンヒルデと人間の知恵
前回好演だったブリュンヒルデ役は代わってしまったが、彼女もヒロイックな声と、力強い声の演技が素晴らしい。人間的な愛の喜び、ジークフリートの裏切りによる憤怒、そしてジークフリートの死で知恵と神性を取り戻した時の決然とした神々しさの対比が、美しく演じ分けられている。

ワーグナーの楽劇は「動機」と呼ばれる、特定の意味を持つ音形(ジークフリートの動機、剣の動機、愛の戸惑いの動機、など)を覚えておくと楽しみが倍増する。特に、最後にブリュンヒルデがジークフリートの亡骸を焼く炎に身を投げる自己犠牲のシーンでは、ワルキューレの動機が織り込まれ、神々の特権である不死を失い人間になったものの、知恵という神性の欠片を思い起こしたことを指し示す。レヴァインはこの動機を力強く描き出し、人間に内在する知恵を表現していた。

ジークフリートのラインへの旅
ジークフリートも相変わらずヒロイックで格好いい。名曲「ジークフリートのラインへの旅」はワーグナーの天賦の才が遺憾なく発揮されていて、そしてレヴァインがそれを素直に表現していて感動的だ。

第2幕になると、ジークフリートは明るく無邪気に、ブリュンヒルデに自らの裏切りを告げる残酷な歌を歌い続ける。その無邪気さがブリュンヒルデの悲しみを一層引き立たせる。アルベリッヒの息子でドワーフのハーゲンの策略に翻弄される人間と神々、そしてその策略を可能にした、どろどろとした3種族の自分勝手な欲望と、無垢な故に利用されるジークフリートとブリュンヒルデ。一度転がりだしたら止まらない、運命の歯車を描いているワーグナーは流石だ。

神々の黄昏
英雄ジークフリートが殺され、ブリュンヒルデの自己犠牲によって、ニーベルングの指環の本来の持ち主であるラインの乙女がライン川を氾濫させ、指環を取り戻す。一方、神々の世界ヴァルハラは、持ち帰られたロゲの炎が、城壁に積まれた世界樹の欠片を焼き、ヴァルハラを炎に包む。

ラインの氾濫と天上で燃え上がるヴァルハラの対比が美しい。そして水が引くと、ドワーフ、人間、神の全てが滅んだかと思えば、月明かりの中で廃墟に人間だけがゆっくりと戻ってくる。自らを悔い改める知恵を得た人間への希望を示す、シェンクの美しい演出で、彼の『指環』は20年の幕を閉じた。
by flauto_sloan | 2009-04-25 10:40 | 音楽・芸術
<< St.Luke's/P... 若尾さんの日本-アメリカ交流コ... >>