MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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Emmanuel Music/Harbison - マタイ受難曲
J.S.バッハの『マタイ受難曲』は、音楽史上最高の名曲に挙げる人もいる素晴らしい作品だ。イエス・キリストの受難の物語を、二つのオーケストラ、独唱、混声合唱、少年合唱で描く。ドラマチックで緻密なバッハの音楽で、キリストや使徒たちの苦悩や悲しみ、群集の狂気と悔悟が生々しく描かれる。欧米では、キリストが受難した、復活祭前の聖金曜日に演奏される慣わしとなっている。

私の最も好きな曲の一つで、昨年BSOでもNYPでも聴き損ねたため、是非とも聴いておきたかった。今日、ボストンのニューベリー通りのエマニュエル教会にて、Emmanuel Musicがマタイ受難曲を演奏すると知り、聴きに行った。しかも指揮はMITのInstitute Professor(MIT最高の職位)で、現代音楽では非常に高名な作曲家であるJohn Harbison教授だ。このエマニュエル・ミュージックはハービソン教授らが創始した楽団だ。

厳粛にて神秘
今回の演奏会は復活祭の一週間前ではあったが、ボストンの音楽愛好家や経験なキリスト教徒が教会に集った。ステンドグラスが美しい。教会なので天井は高く、荘厳な雰囲気に包まれる。
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エマニュエル・ミュージックが入場し、いよいよマタイが始まった。重い足取りでゴルゴダの丘に向かうイエスの姿で始まる第一曲。音楽が次々と展開し、合唱が広がっていく。そこへ、2階席から少年合唱が加わる(・・・と思ったら少女合唱だったのは残念。やはりライブで聴くと迫力が違う。

福音詩家ものびのびと澄んだ声で歌う。他の独唱も、技術的には至らないところがあっても、気持ちがこもっている。

憐れみたまえ、わが神よ
話は進み、最後の晩餐があり、やがてペテロがイエスのことを訊ねられて「そんな人間は知らない(Ich kenne des Menschen nicht!)」と3度否定する場面に至った。鶏が鳴き、己の過ちに気づいたペテロ。そしてマタイの中でも最も美しく悲しい、アルトのアリアが続く。
Erbarme dich, mein Gott,
um meiner Zähren willen!
Schaue hier, Herz und Auge
weint vor dir bitterlich.

憐れみたまえ、わが神よ、
滴り落つるわが涙のゆえに!
こを見たまえ、心も目も汝の御前に
激しく泣くなり

(杉山好訳)
1939年のメンゲルベルク盤のすすり泣く演奏に出会って以来、絶望した時、耐え難く苦しい時に何度となく聴いた、この曲なしに今の私はなかったといえるアリアだ。ハイフェッツ教授の授業の後も、iPodで偶然この曲を聴いたとき、胸に去来するもので涙を流した。

そのアリアを聴いて、思わず手を合わせる。アルトの痛切な祈りに、胸が熱くなった。
この一曲を聴いただけでも、もう満足だった。


曲はその後も続き、イエスが磔刑に架けられ、「エリ、エリ、ラマ・サバクタニ」と神に語り息絶える。
最後は「おやすみなさい、主よ」の合唱で荘厳に、だが切なく終わる。

ハービソンは曲の魅力を引き出すことに専念する。作曲家であるだけに、余計な味付けをしなくとも、曲が自ら語りだすことを理解してのことだろうか。教会という神秘な場所とあいまって、感動的なマタイ受難曲だった。
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(参考)
Magdalena Kozenaによる"Erbarme dich, mein Gott"

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by flauto_sloan | 2009-04-05 22:50 | 音楽・芸術
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