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MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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安全保障と科学技術
安全保障と科学技術_c0131701_13654100.jpg今回のボストン日本人研究者交流会では、早稲田大学教授でハーバードの客員研究員でボストンに滞在している、山本武彦教授をお迎えし、『東アジアにおける科学技術活動のもつ安全保障上の意味』と題して発表していただいた。
ちょうど北朝鮮のミサイル発射を控え、安全保障への意識が高まっている時である。
MITとハーバードを擁するボストンらしく、日本とアメリカにおける科学技術と安全保障の関わりの違いについての見識は、非常に興味深かった。講演要旨は以下のようなものだった。
科学技術は、MITのSkolnikoffが論じるように、国家のバリューの源泉である*1。各国家は比較優位性を保ち、増進させるような科学技術政策を採ってきた(日本の第5次半導体計画など)。そうした科学技術を軸として生き残りをかけた戦略は、
地戦略(geo-strategy)=地政学(geo-politics)+地経学(geo-economics)
として定式化できる。

ここで決定的に重要な(critical)軍事などの科学技術は、自国のみならず敵対国家・勢力にも利益を与える可能性がある*2。そのため、国は技術を囲い込み、移転に対して規制をかける。だが頭脳流出やみなし輸出を完全に失くすのは非常に難しい取り組みである。

だが、何をcritical technologyとするかでは、軍事と民生の技術の境界が曖昧になって来ているために、判断が難しくなっている。米国は軍事技術からスピンオフして民生技術に転用し、軍産複合体を作り上げてきたが(インターネット、GPS等々)、日本は軍隊を持たないために民生技術が発達し、それがスピンオンとして軍事技術に転用された(ステルス戦闘機の素材等)。

それゆえ、日本の民間企業が海外資本に買収されようとする際は、そこの技術が軍事転用可能かどうかを判断しなければならないし*3、東芝COCOM事件のように先端技術製品の輸出でも考慮しなければならない。特に近年軍事力を急速に増強している中国は、日米両国の軍事・民生技術を収集しており、スピンオフ・オン双方の利益を取り入れようとしている。

Critical Technologyは移転を抑止しなければならないが、環境改善や人間に資する利益(準公共財)は規制を無くしていかねばならない。頭脳流出を規制しようにも、行き過ぎればイノベーションを妨げかねない。あくまで「より少ない対象に、より高い壁」を設けるバランスが重要だ。

日本にだけいて、ハイテク技術を見ていると、つい軍事視点が完全に欠落してしまう。アメリカでは当然軍事産業が非常に大きいので(ガルブレイスも『悪意なき欺瞞』で告発していた)、当然考慮している技術観だ。日本に軍事産業がない、というか意識されていないことは機会損失であり、現実の一側面しか見ていないことになり兼ねない。

そのアメリカでは、シリコンバレーやボストンの開放的で革新的な環境と、critical technologyの移転抑止による安全保障はトレードオフにあるため、9/11を経て経済が悪化すると、今後移転抑止へ傾斜して開放性が犠牲になってしまうこともありうる。米国の成長を取り戻すために、イノベーションは不可欠であろうが、保護主義で閉鎖的になりつつある米国は、このトレードオフを逆に押し戻すかもしれない。そうした時、新たな開放的環境を提供するのは、インドであろうか。

日本はスピンオンすべき優れた技術を持っていながら、開放性に欠け、しかも移転抑止が不十分である日本。今蓄積している技術も、インプットがなければやがて他国に抜かれてしまうし、頭脳流出でアウトフローが増したら、尚のこと競争力を失う。日本としての地戦略を、省庁の垣根を越えてしっかりと策定して欲しいし、それができるリーダー(リーダーシップと言う点では小泉首相並の)が必要だと、切に思う。

それにしても、山本先生は非常に話が面白く、そして勿論洞察深く、会場は常に笑いと感嘆の声に包まれていた。楽しくも学びの深い講演だった。


*1 米国政府が支援した核や航空の技術は、冷戦時の国力増進に大きく寄与した
*2 日本に向けられた北朝鮮のミサイルが、9割の部品が日本製だという話は、まさにこれを示している
*3 日本で実際にあった例が紹介されたが、食品メーカーの技術がミサイル製造の中核技術に転用可能であったため、外資買収に対して敏感に反応し、結局日本の同業メーカーが吸収した例があった。また、Jパワーの買収案件の時には、法改正までして買収を阻止した。勿論、ならば何故上場をするのかという問題を孕む

by flauto_sloan | 2009-03-14 22:07 | Guest Speakers
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