MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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土地と欧州に潜む危機 - Feldstein 元CEA議長
c0131701_323975.jpgレーガン政権でのCEA(大統領経済諮問委員会)議長のMartin Feldsteinハーバード大学教授*1が、元IMF主席アナリストのJohnson MIT教授の進行で講演を行った。今回の金融危機と今後の展望についてだ。なかなか面白かったが、同時に今回の危機を乗り越える難しさも伝わってきた。

現在は経済回復諮問会議のメンバーであるフェルドシュタイン氏は、ローレンス・サマーズ国家経済会議議長の師であり、レーガン政権でCEA議長に就くと「レーガノミクス」を推進した。

住宅ローン市場へ介入せよ
そんなフェルドシュタイン教授は、今回の危機の対策には地価のコントロールが重要であり、政府が直接ホームオーナーに融資をして、地価の下落を止めることが重要だと述べていた。
今回の危機で、GDPの約5%の$750Bの総需要が減少した。これは住宅価格の下落による世帯の資産減少の寄与に伴う消費減少が$500B、住宅市場自体の冷え込みの寄与が$250Bだ。資産の減少はこれまでの不況で最大だ。

加えて、信用収縮によって最も信用の高い借手にも資本が回らなくなった。金融機関が貸倒比率を把握も予測もできないからだ。(米国の住宅ローンはノンリコースローンであるため)鍵を貸手に送って家を出る借手が後を絶たない*2以上、今後どれだけB/Sが悪化するのか予測できず、貸出ができないでいる。

そこでFedは、住宅ローンやCPなどの信用市場に絞り込んだ救済をすべきであり、それで家計が改善するはずだ。日本が行ったように、銀行に資本注入して全体の流動性が高まることを期待しても、銀行自身のB/S改善に使われるだけであり、効果は薄い。

$700Bの財政支出は、GDPの減少を相殺できない。さらに現在GDP比40%もある国債の負担が今年度50%になり、このもまま60%超ということも今後あり得、規律が必要になるだろう。

問題の端緒は差押さえにある。差押さえによって信用と需要が収縮し、住宅価格がさらに下落し、差押さえが一層増える悪循環が始まってしまう。これを防ぐための政府介入が必要だ。政府が低利の融資を住宅オーナーに行い、頭金の支払いをさせることで、住宅価格が下がっても自己資本がプラスであり続けるようにすべきだ。その代わり多重や多額の債務を規制する必要があるし、政府が住宅ローンの一部を共同負担するとともに遡及性をもたせることも必要だろう。こうして、「危険水域」の住宅のオーナーを救済しければならない。
講演後にkazさんと感想を話したのだが、遡及性を持たせると、日本のように借金で首が回らなくなり、悲惨なケースがアメリカでも起きるかもしれない。今回のサブプライム問題の背景に、低所得者層の金融知識や商品知識の欠如があり、そこにつけこんだローン仲介業者のモラルの無さがある。だからこそ「忍者ローン (NINJA = No Incom, no Job, and no Asset)」なんてものが生まれた。もし政府介入とセットに遡及性を持ち込むなら、ここでも正しいコミュニケーションや教育を行わないと、ノンリコースローンのような気軽さで借りて、破産する人が現れるだろう。

ただし、ノンリコースローンは消費財における返品のし易さ同様、米国の消費を加速させた要因でもある(だからこそ景気が反転すると不況も加速する)。制度設計が事後主義であるアメリカにはよく合った制度なのだが、アクセルしかない車が危険なように、ある程度加速度を犠牲にしてバランスをとることが必要なのだろう。

また、住宅政策で誰を助けるのか、と言う問に対して、危険水域に入りつつあるホームオーナーだと言い切ったのが印象深かった。米国でも日本のバブル期のように、価格が上昇し続ける不動産を担保として、ローン返済のためにローンを組み、現金をそこから抜いて消費に回していた人々が最も被害を受けている。ちょうどフォーブズ教授(彼女はブッシュ政権のCEAメンバー)の授業でも取り上げられたのだが、この層が全世帯に占める割合は実際のところ5%ほどだと言われ、第一の救済対象とするには効果が少ない(尤も、消費を牽引していたのはこの層なのかもしれないが)。

一方で、25%の世帯は既にローンを返済し終わっていて、住宅価格の下落が即時行動には繋がらない。だが住宅政策の税負担に対するリターンも受けないため、税の使い途には厳しい。先述のような無責任で自業自得の5%を救済するとなると、この層を中心に国民感情が悪化する。

だからこそ、まだきちんとローンを払っているが、持ち家が純負債(自己資本分がマイナス)になりかけている世帯を救済するのが必要だ。住宅価格を下支えし、この世帯が家を手放すのを避けなければ、より大きな悪循環が始まってしまう。詳細がもうすぐ明らかになるオバマ大統領の住宅政策は、タイミングと支援の対象・大きさが注目される(注: このエントリを書いているうちに、住宅政策が発表された。やはり無責任な層と危険水域の層の区別が難しく、コミュニケーションもまた難しいため、「不公平だ」という批判が起きている)


欧州でより深刻な金融危機
また、世界経済への金融危機の影響では、フェルドシュタイン教授とジョンソン教授が一致して「欧州が一層危険だ」と言っていた。欧州では、政治的に財政政策が発動しにくく、金融市場の規模がGDPに比べて大きいためだ。
米国の金融危機による資産の再評価が株価下落を招き、企業の信用悪化によって貿易規模が縮小し、経済危機を一層深刻にしている。これは貿易相手国と相互に悪循環を強め合う構造になっているため、世界中に危機が波及している。

特に問題なのが欧州であり、政治的合意の難しさと金融が大き過ぎる経済構造とが根幹にある。アメリカでも政治的衝突は問題で、なぜ銀行ばかり救済するのだという国民感情の悪化、州の独立性の強さによる足並みの乱れがある。だが欧州はもっと酷い。通貨・経済統合により、政策の波及効果は大きいのだが、逆にそのために「自分の国だけ負担をするよりは、他国にただ乗りしよう」という思惑が働いてしまう。そのためG7で協調を謳っても、政策が同意され実行されるのが遅くなり、被害が増してしまう。

また、金融機関の規模が国の経済規模に比べて大きすぎるため、金融危機の影響が個々の国で耐え切れない程大きい。真っ先に破綻したアイスランドは、金融業界の規模(総資産)がGDPの20倍であったため、最後は首相が「また漁業に戻るのか」と嘆く結果となった。だがスイスでは8倍、イギリスでも6倍であり、対GDPでの被害額がかなり大きい。また民間部門の負債があまりに大きいため、景気刺激のための財政政策が(原資と効果の面で)非常に難しい。

この二つの問題のため、欧州は米国よりも被害が深刻で長引くだろう。
欧州がここまで深刻だと言うのは、あまり知らなかった。ユーロの下落が激しいことは知っていたが、このような構造的要因があったと知ると、確かに景気回復の難しさを感じる。また中国などとのデカップリング論も反証された今、本当に経済が世界規模で結びつき、経済大国の政策への責任が増してくる。

日本は政府・野党・マスコミが見事なまでに膠着状態を作り出し、無為無策を強いているが、世界第2位(または3位)の経済大国として、内向きの議論(漢字の読みをあげつらい、損を垂れ流す施設の売却を批判するなど愚の骨頂)ではなく、世界に責任ある政策論議をしてほしい。


*1 歴代CEA議長については、soheiさんがまとめているので参照されたし

*2 例を挙げて説明する。5000万円の住宅を、頭金を2割の1000万円、ローン4000万円で購入したとする(簡単のため利子を無視する)。この住宅の価格は5000万円だが、家主の資本はまだ1000万円でしかない。ローンを返済していくと、負債が減って自己資本分が増え、返済し終わってやっと、5000万円の資産が全て自分の資本となる。

一方、もし購入後一夜にして住宅価格が3割下落し、3500万円になったとすると、ローンの4000万円は残るので、家主がその住宅に持っている資本はマイナス500万円となる。日本のような遡及型ローンだと、自分にとって自己資本分がマイナスになっても、涙を流して働いて返済しなければならない。だがアメリカなら、「そんな物件はいらない!!」と言って、家の鍵を金融機関に引き渡し、それを担保としてローンの返済義務がなくなる。家主にしてみれば担保である住宅価格以上の返済義務が生じず、頭金の1000万円は損するものの、それ以上の損もローンの返済義務もなくなる。

つまり住宅価格が (価格-頭金-返済分) を下回ったら、それ以上その住宅を持つ意味がなくなり、金融機関にしてみれば不良債権(というか損金処理)化する。ローン会社が家をいくつも持っていても仕方ないから、少しでも現金化しようと住宅を売りに出し、住宅市場が供給過多になり、さらに住宅価格が下落し、より多くの人が家を手放す。これが証券化されていたことで、さらに被害額は増え、被害者も拡大する。

価格の上下とリスク/リターンの対称性が一致しない(リスクにのみ下限がある)ので、バブル期には住宅への投機や、値上がりを見込んだローンの借り換えがさらに促進される。逆にバブルが弾けた時の需要減少も大きくなる。

一方、新しく家を買おうと思っていた人は、もう少し待っていればさらに安く買えるので、購入を手控えてさらに需要が減少し価格が下落する。まさに悪循環である

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by flauto_sloan | 2009-02-12 01:51 | Guest Speakers
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