MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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ベネズエラ・トリップの中止
ベネズエラへのスタディ・トリップがキャンセルになってしまった。この上なくショックだ。

春休みに、スタディー・トリップでベネズエラに行く予定だった。スタディー・トリップはスローンの公式イベントなので、教授が同行し単位も認定される。半分は遊びだが、半分は真面目だ。申し込みにはエッセイを提出せねばならず、真面目なコミットメントが求められる。

そのトリップの目的は、エル・システマの調査だった。エル・システマはこれまで何度か紹介したが、ベネズエラのNPOであり、音楽教育を通じて貧困の解消と人的資本の向上を図るプログラムだ。

エル・システマ
ベネズエラの首都カラカスは、大戦後どんどん荒廃し、犯罪の多い危険な都市となっていた。スラム街の子供たちは、ギャングに入り、銃を持ち、麻薬を吸い、そして生きる目的も見つからないまま、傷つき殺されていた。貧困は再生産され、希望のない街であった。そこで経済学者のJose A. Abreu氏が、エル・システマ(El Sistema: The System)というプログラムを立ち上げた。

子供たちに楽器を与え、音楽を教え、オーケストラで合奏をさせる。子供たちは音楽の楽しみを知って心が豊かになる。楽器の腕が上達することで自尊心をもち始める。そしてオーケストラで他人と協調することを学び、社会に出ても適応できる素地を作る。

開始してもう25年ほどになるのだが、エル・システマは目覚しい成果を挙げた。カラカスの犯罪発生率は低下し、犯罪に手を染めず就労できる若者が増えた。カラカス以外の都市にも展開し、今ではベネズエラ中にユース・オーケストラがある。優れた演奏をする子供には、選抜によって上位のオーケストラに参加でき、頂点にあるシモン・ボリバル・ユースオーケストラは、世界一のユースオーケストラと認められている。昨年末に来日公演を果たし、聴きに行った母親がいたく感激していた。私も聴きたかったほどだ。

さらには、このプログラムがなければ埋もれていたであろう才能も発掘した。その代表が、今世界で一番注目されている若手指揮者のギュスタボ・デュダメルだ。もこもこの天然パーマと人懐っこい顔立ちという風貌も人気だが、彼のエネルギー溢れ、即興性に満ちた解釈は、聴いていてとことん楽しい気持ちになる。昨年一度聴いたところ、発展途上だが魅力的な指揮者だと感じた。

アメリカでのエル・システマ
ベネズエラでの成功を受けて、同じく犯罪や貧困に悩むアメリカの都市が、同じプログラムを展開し始めた。ここボストンでも、貧困地区サウス・ボストン(MITが舞台の映画、『グッドウィル・ハンティング』の主人公はここ出身)に対し、ニュー・イングランド・コンサバトリー(NEC)が中心となってエル・システマを展開している。一定の成果は挙げているが、ベネズエラとアメリカとの間の文化や社会構造の違いも考慮すれば、改善の余地があるのではないかと思われる。

スタディ・トリップ
今回のベネズエラのスタディ・トリップでは、まさにこのエル・システマを調査するはずだった。NECをクライアントとして、カラカスとボストンでエル・システマの関係者(音楽教師、生徒、生徒の保護者等)へのインタビューやその他調査を行い、何がベネズエラで上手くいく要因で、それがどこまでボストンで展開可能なのかを見極めることが目的だ。

参加者は十数人だったが、先日のタレント・ショーで競演した二人もいたし、皆かなりやる気だった。それが突然の中止決定だ。キャンセルする参加者が相次ぎ、授業の最小催行人数を割り込んでしまったからだ。もともと安全上の理由から人数はだいぶ絞り込んでいたのだが、それが裏目に出たようだ。また、ベネズエラ人の巻き込みが不十分(オーガナイザーに一人のみ)なのも、不安要素になっていたようだ。結局、学校が「この人数に教授二人を付けられないし、スポンサーもできない」と通達してきた。残念で仕方がない。

りごぼん教授やNEC学長、ベン・ザンダーなどゲスト講師も招く予定だったのだが、それもキャンセルとなってしまった。

ベネズエラにコミットしたため、同じ時期に開催されるインド、イスラエル、トルコへのトレックには当然申し込んではいない。今からだとウエイトリストなので、申し込んでも行けるかどうか微妙だ。

だがそれ以上に、将来エル・システマ的な、音楽による教育・人的資本増強のプロジェクトを行いたいと思っていたので、要となりうる大きな経験をする機会を失ったのが無念だ。

有志のトリップ
この決定を受けて、最後まで残った何人かで、学校のサポート無しにベネズエラへ行こうかという話が持ち上がった。既に通訳や交通は手配し始めていたので、それを利用しようというものだ。まだ検討中なのでどうなるかわからないが、ここまで来たらなんとかやり遂げたい。
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by flauto_sloan | 2009-02-06 01:08 | MITでの学び(MBA)
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