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MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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Dog Whisperer - 犬の群れにおけるグループ・ダイナミクスとリーダーシップ
以前紹介した"Law & Order"は妻の一番好きなテレビ番組であるが、私の一番好きな番組は"Dog Whisperer"というNational Geographicの番組だ。日本でもBSで放送しているという。Cesar Millanという「犬の心がわかる男」が、様々な問題を抱える犬と向かい合う。そんな彼のモットーは "I rehabilitate dogs, and I train Human (僕は犬をリハビリし、人間を訓練する)"だ。訓練するのは犬ではなく人間だというのが非常に重要だ。

犬の心理分析
シーザーの手法は"dog psychology"の応用だそうで、犬の心理がどう働くかの理解に基づき、犬の行動を変えていく。犬は常に群れの中での自分のポジションを意識するので、飼い主が"pack(群れ) leader"となり、犬がそれに対し "calm submissive(大人しく従順)"な態度を示すようにするのが目的となる。

凶暴(aggression)だったり、何かに偏執的(obsession)になったりする犬は、大体において群れ(家族および他の犬)の中にリーダーが見当たらず、結果自らが群れを支配(dominance)しようとする。その不安から不必要なエネルギーを溜め込み(excited)、問題行動を起こしている。

飼主は往々にして「犬が問題」だと思っているが、実際殆どは飼主が問題の根源だ。ソファに犬を座らせる、犬の代わりに何かをしてあげる、等々の可愛がりが、犬のdominanceを助長している。犬は自分より下位の飼主の言うことを聞かなくなる。

"Excited dominant" から "calm submissive" へ
だからシーザーは、飼主を訓練して群れのリーダーに再臨させることから始める。威厳を持って犬に目を合わせず、エネルギー(気のようなもの)を犬に向けて発して、犬の中に余分に溜め込まれたエネルギーを発散させる。物理的には首紐も有効に使う。

そして、犬と飼主との間に権力争いが生じると、犬を屈服させて従順にし、リーダーから群れの一員としての役割に順応させる。この屈服は、問題行動を繰り返しその場で修正し、犬が自分から行動を改めるようにすることを通じて達成される。

群れという小さなシステムにおいて、人間と犬との相対的な位置関係は、犬と人間の相互干渉で決まるのであり、犬だけを矯正できるものではない。双方がそれぞれに変わらねばならない。だが双方が変われば、人間が不快で犬も不安な状態から、人間が楽しく犬も幸せな状態へと遷移できる。

まさにシステム思考であり、シーザーはこのグループ・ダイナミックスを知った上で、飼主にリーダーシップの発揮を求めているのだ。

犬と人間
シーザーが活用している、犬心理学のやり方(特に首紐で犬をコントロールしたり、時には犬を押さえつけたりするプロセス)は、一部で批判も受けている。曰く、考えが古い、犬を虐待している、云々。だがシーザーは幅広い訓練法を学んだ上で、最も効果的な方法として犬心理学を活用しているし、虐待などはしていない。

むしろこの批判は、過激な動物愛護団体にありがちな、人間の価値観や感情を犬に押し付けているための誤りだ。犬と人間は種族も社会形態も異なるから、心理も異なると考えるのは、極めて妥当な仮説だろう(今西錦司が馬や猿の社会から動物行動学を押進めたのと同根だと思う)。犬は群れで生活するから、従順であることは隷属ではなく、一つの幸せな安定した状態だし、群れのランクを落とすことは犬の社会でしょっちゅう起きている。それを、人間の価値観や心理変化で解釈して「犬は不幸せに違いなく、虐待だ」とするのは、犬に失礼だ。

犬と人間を同じと捉えるのであれば、ある状態に対する感情の持ち方を同じとするのではなく、ある相互干渉を起こした時に、グループの状態がどう変化するのかを同じと考えて観察するほうが、学ぶものは大きい。そこには、リーダーシップの動物的な根源があるように見える。
by flauto_sloan | 2008-12-21 14:30 | NYでの生活
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