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MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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インテリジェンス - 民主主義のジレンマ
インテリジェンス - 民主主義のジレンマ_c0131701_13101420.jpgJFK Forumで、アメリカ国家情報長官(DNI)のマコーネル氏が、合衆国のインテリジェンスについての講演を行った*1

インテリジェンスは日本でも、手嶋龍一の『ウルトラ・ダラー』佐藤優の著書や講演で注目されている*2。アメリカのインテリジェンスのトップとあれば、好奇心に駆られない訳がない。

マコーネル氏は、米国海軍の情報部に29年間在籍し、その後CIANSA(国家安全保障局)、ブーズ・コンサルティング(旧ブーズ・アレン・ハミルトン)を経て、昨年10月に国家情報長官に就任した*3。そんな彼の講演のポイントをいくつか。
  • (インテリジェンスについて) インテリジェンスに関わる者は、常に「国民への情報共有」と「情報源・入手手段の保護」とのジレンマに悩まされる。特に国家安全保障に影響が大きい情報の場合、情報源の秘匿は極めて重要だ
  • インテリジェンスの重要なスキルは"Human Intelligence (人手による諜報活動。所謂スパイなど)"と"Signal Intelligence (暗号解読や情報インフラを介した諜報活動)"だ。最近は特にSignal Intelligence能力・技術を強化している。米国で政府も民間もITインフラへの依存が非常に大きくなったため、サイバーテロの攻撃を受け易くなっているからだ
  • 情報戦がボーダーレス化した今、既存の法律を変える必要がある。海外のテロリストが海外からインターネットを利用して攻撃をかけてくる場合、今のままだと制約がある

  • (DNIについて) DNIは世界中の様々な問題に関する情報(たとえば水を巡る争いがどう激化するか、食料価格がどう高騰するかなど)を集め、毎週大統領にブリーフィングをしている。広範で詳細な情報・分析を持っているからこそ、問題の優先度付けと、それに基づいた国家戦略の修正が行える
  • インテリジェンスにおける最大の障害は、縦割りの官僚組織とリソースの分散だ。官僚化が進むと、各組織が自分の利益の為に動くため、協力を得にくくなり、情報の質が下がる。また米国内にインテリジェンス部門が16もあり(陸軍、海軍、CIAなど)、それぞれ得意分野は異なるものの、リソースが分散し不必要な競合が生じてしまい、機動性・効率性を損なっている。そこで省庁を横断し組織を統合する為に設立されたのがDNIだ
  • だがまだインテリジェンス部門は健全とはいえない。チェック・アンド・バランスがうまく設計されていないからだ。上記のジレンマを理解しつつ、うまく組織を修正していかねばならない

流石に驚くような秘密情報は出てこなかったが*4、情報開示と情報源秘匿のジレンマを含めて、アメリカ国民の理解を得たい、という強い願いが伝わってきた。強大な軍事・情報力を持ちつつ、民主主義を世界に敷衍するアメリカの矛盾の象徴、それがインテリジェンスなのかも知れない。


*1 初代長官はジョン・ネグロポンテ氏で、OLPCのニコラス・ネグロポンテ教授の実兄
*2 妻は一度佐藤氏の公判を見ている。恐ろしく記憶力に長け、頭の回転が早い人だったそうだ。重要な数字や事実は全て記憶していたという
*3 ブーズはこういった経緯もあって、国家安全保障やインテリジェンスに強いコンサルティング・ファームという特異な地位を築いているという
*4 会場には多くの警護がいた。途中独り言を話しながらうろうろしている不審者が現れたのだが、一瞬で警護数人が取り囲み、どこかへ連れ出していた。うーむ、流石だった

by flauto_sloan | 2008-12-02 22:08 | Guest Speakers
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