MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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幸せ - System Dynamics
システム・ダイナミックスの授業で、「幸せ(happiness)」について議論した。勿論、幸せを定量化するのは非常に難しい。人の幸福は健康、消費、家族や友人、周囲との比較、基本的欲求の充足、時間的変化率、等々多くの変数から成る関数だ。

その幸せを満たすべく人がどう行動し、その結果幸せはどう変化するのかをモデル化すると、非常に意義深い。

幸せになるメカニズム
授業では、以下のような構造を主に論じた。
より幸せになるには頑張って働く。働けば消費があがり、可処分所得が増えて消費が増え、消費欲求が満たされて幸せになる。

だが頑張って働くと、収入が増えると同時に評価が上がり昇進する。すると周囲の消費水準も上がり、消費欲求がエスカレートする。新たな欲求水準を満たすには、今まで以上に働かなければならい・・・ 「こまねずみ」の悪循環だ

また、働くほど仕事以外の時間が減り、休息したり家族や趣味に費やしたりする時間が減り、心身ともに疲弊していき、幸せが減ってしまう。この影響は時間の遅れを伴うため、気づいた頃には上記の悪循環に陥っている可能性がある。

そしてスターマン教授が最後に強調したのは、「奉仕・貢献」している実感の重要性だ。人は自分の行動が世の中の役に立っていると感じるとき、より幸せを感じる。同じ消費でも、人の為になっている消費のほうがより幸せを感じるという研究結果がある。そういった貢献に費やす時間が減ることも、幸せの増加を妨げている。
幸せと国民性
お金があれば幸せなのだろうか、という問を国民性と絡めると面白い。授業でも取り上げられた研究成果でNY Timesの記事にもなったもので、一人あたりGDPの絶対額が大きいほど幸福度が高いと結論付けたものがある*1

面白いのは、記事中のグラフで回帰曲線を引くと、その上側(収入以上に幸せを感じる)の国はラテン諸国が多く、下側(収入の割りに幸せを感じていない)の国は旧共産圏か、現状破綻している国々(ジンバブエなど)が多い。日本はその下側にある。

これだけで日本人の国民性や文化と幸せの関係を議論できるとは到底思わない。それでも何故だか考えて見ると、日本人が幸せを感じにくい要因としては、物質的・金銭的豊かさに対する幸せの相関の弱さ(或いは社会的に弱いべきだと信じられている)、極度の損失回避性向*2があるのではないかと思う。

いくらお金を儲けても、それで幸せと感じることに対して社会的な抵抗*3があり、翻って個人の感情にも「お金だけで幸せは買えない」という諦念や「お金で幸せを感じてはいけない」という義務感が生じているかもしれない。(まあ社会通念への感受性は低下していそうなので、今でもそうかはわからないが)

また、米国に住んで改めて感じるが、日本人は非常にリスクや損失に対して回避性向が大きい。徹底した品質水準、安全志向の資産ポートフォリオ、公務員・大企業志向などがいい例だ。これは、他国民以上に、損をした時に「感じる」損失が大きいのかもしれない。

この二つの仮説が正しいなら、経済成長で収入が増えても、日本人は幸せを増加することが少なく、何かのきっかけで損や不利益を被った場合の幸せの減少が大きい結果、他の国民ほど幸せになれなかったのかもしれない。

喜捨
他にも、収入の増加に比べて消費欲求水準のエスカレート度合いが非常に大きかった、或いは他人や社会に貢献する習慣や実績がなかった、ということも考えられる。前者は直感としてなさそうに感じるのだが、後者はあり得るかもしれない。

日本人は驚くほど寄付をしない*4。強度の損失回避が影響しているのだろうか。幸せになるためには、財布の中のなけなしのお金を、人のために使ったほうが良いかもしれない


そんなことを思いながら、その後のハーバードからの帰り道、いつも道行く人に声をかけ、お金を貰えなくても
"Have a good day"
と言い続けているホームレスに、少々だが恵んだ。彼の言葉はいつもと違い、
"God bless you!"
だった。偽善だろうとなんだろうと、確かにそう言われて少し幸せになった。

明日はThanksgivingだ。


*1 このNY Timesの記事は、日本が経済発展をしたにも関わらず幸福に思っていないという "Easterlin Paradox" を主軸に論じていて面白い
*2 行動経済学で、個人が感じる効用は、参照点よりも利益が増えた場合に比べ、同額減った場合の方が変化の絶対値は大きいとする(つまり、100万円利益が出るよりも、100万円損をした方が大きな変化だと感じる)。一般的に損失は利益の2倍程度に感じるというが、日本人ではこの差がもっと大きいのかもしれない
*3 ホリエモンや村上ファンドに対する社会の反発がよい例だろう
*4 金銭的余裕のなさは致し方ないが、寄付にまつわる胡散臭さも一つの阻害要因だ。詐欺まがいの寄付が少数でも目だって存在するため、正しい目的の寄付活動や、まっとうな非営利団体の寄付のお願いも単純に同一視されやすい。他にも宗教や習慣として喜捨が根付いていない(実際は托鉢も見かけるのだが)、個人よりも公共団体を通じた支援が望ましい、といった慣習が寄付の拡大を阻害している

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by flauto_sloan | 2008-11-26 05:56 | MITでの学び(MBA)
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