MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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システムとして世界を見つめた90歳 - Jay W. Forrester名誉教授
c0131701_239261.jpgMIT Sloanを代表する学問分野といえば、システム・ダイナミックスである。そのシステム・ダイナミックスを創立した Jay W. Forrester名誉教授が授業を訪れ、講演を行った。フォレスターの考えや著作は世界的な反響を呼び、世界を震撼させたローマクラブの『成長の限界』に繋がり、また多くの研究者に影響を与えた大人物である。
(偉人伝konpeさんのこの記事でも、如何に彼が多くの学問の礎となっていたかがわかると思う)

カウボーイ
フォレスターはネブラスカの牧場で生まれ育ったカウボーイだ。もう90歳なのだが、背筋が伸び凛とした長身は、そんな歳をまるで感じさせない。高校のときに牧場の自家発電装置を作るほどの機械好きで、MITに入学後は機械工学を専攻し、戦時中は最先端のレーダーを開発していた。その後フィードバックの概念を発展させてシステム・ダイナミックスの考え方を確立させた。

ちなみに、彼の功績を讃えた "Jay W. Forrester Professor of Management" を冠しているのが、今システム・ダイナミックスを教えているジョン・スターマンである。

メンタル・モデルを超えて
そんなフォレスターの講演は、システム・ダイナミクスを俯瞰し、その役割を論じていた(ケースとしては学校教育政策を取り扱っていた)。流石に洞察に溢れていて意義深かった。以下に印象的だったポイントを記す
  • 多くの人の思考法は「問題→対策→結果」のように線形で解放系だ。実際の世の中は、「問題→対策→結果→(修正された)問題→…」のようにループが閉じている。システム・ダイナミックスは人々のこうしたメンタル・モデルに挑戦し、ものごとの構造を理解できる形に表現することに価値がある。そうして、政策決定などに誤りがないようにする

  • 意思決定の情報源として、数値化されたデータベースを過信してはいけない(つまり、意思決定に際して定量的なデータのみに頼りすぎてはいけない)。数値化されたデータベースは、記号化されたデータベースの一部でしかなく、記号化されたデータベースはメンタル・データベースの一部でしかない。メンタル・データベースが持っているモデルが、意思決定を支配している(そして意思決定の結果がメンタル・データベース内のモデルを補正する)。記号化されたデータベースはその一部でしかないので、世の中に書き表された情報だけに固執すると、誤った判断に繋がる。ましてその中で数値データだけに頼ることは、意思決定の信頼性を著しく損なわせる

  • 物事を見る上での時間軸を十分にとることも重要だ。景気は4つのサイクルから成るとされるが、45-70年のコンドラチェフの波の下方局面が、1930年から70年ぶりに今訪れていると考えられる。短視眼になってはいけない

  • 大きく重要な問題から取り掛かるべきだ。なぜなら問題の構造を理解し、ポリシー・レジスタンス(施策の結果状況が却って悪化すること)のない施策を打つことは、問題の大小・重要性に拠らず難しいからだ

  • 次のフロンティアは、社会・経済のシステムを理解することで切り開ける
世の中が様々な規模・レベルのシステムの集合体であるとするとき、システムに好ましい影響を与える施策を生み出すための律速は、人間の認知能力にあり、施策の有効性のスコープは人間のメンタル・モデルにある。それら人間の能力(個人としても総体としても)を上回る複雑性とスピードで世の中が変化していることに対し、制御不可能で不気味な恐ろしさを感じるのは全く正しい。

ちょうどSoheiさんの研究者交流会での発表とフォレスターの講演とが結びつき、そんなことを考える。フォレスターらが30年前から「成長の限界」等で人類に警鐘を鳴らすも、手が打てるときには結局人類のメンタル・モデルが理解の邪魔をしていて、ようやく持続可能性が危ぶまれる段になって理解が追いついてきた。金融恐慌にしろ国際紛争にしろ、特定の個人や団体を糾弾するのは簡単なのだが、なんだか人類の限界、業というものが根本なのではないか、と思ってしまう。

均衡点を飛び越えてしてしまった人類は、絶滅へ向かうのか、新たな均衡点に辿り着いてそれを甘受するのかはまだわからない。やがて迎える世界はこれまでとは全く異なる世界にあるから、価値観や宗教観は大きく変わらなければならないだろう。できるだけ苦痛が少なくなるよう、持続可能な世界を作っていかなければ、と思う。

それにしても、90年生きてきて、その半分以上をシステム思考で世界を見つめていただけあり、彼の世界観は深い。こういう偉大な学者と出会えると、ケンブリッジにいてよかった、とつくづく感じる。もう一年経たずに帰国してしまうのが残念だ。
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by flauto_sloan | 2008-11-19 21:17 | Guest Speakers
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