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MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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音楽家とリーダー
リーダーシップの授業で "Music Exercise" を行った。リーダーシップにおける音楽の役割を追求するとは、流石はチェリストでもあるハイフェッツ教授らしい。そしてその後はハーバード音楽学部在学中の人と飲み、日本の音楽の将来を憂えた。音楽を利用したリーダー育成と、音楽家のリーダー育成、どちらも今後の日本の人材育成には重要ではないかと思う。

Music Exercise
リーダーシップにおいて、グループが内包する感情や思いを感じ取って共鳴し、さらに自ら発信して周囲を感化することは重要なスキルである。その感情や思いは決して静的でも予測可能でもないため、リーダーには即興的な判断と行動が必要になる。

音楽はまさに周囲との調和を理解し、その中で自らの演奏により周囲を引き込んでいくダイナミズムの実践の場であるし、即興性を磨く最高の場でもある。詳細は書かないが、このエクササイズでは、ソロでグループ・ダイナミクスを抱ききれるか、言語の下に響く「歌」を聞き取ることができるか、ポリフォニーの中で自らの立ち居地を理解できるか、を主に学ぶ。それぞれ教授法はやはり独特で面白い。

日本の音楽
そのエクササイズ後、研究者交流会で出会ったハーバード音楽学部に留学中の方と食事をし、日本の音楽業界の将来について語った。喫緊の課題は音大生の質の低下(意欲および技量)であり、本質的な課題は音楽教育機関における経営スキル欠如と教師・教育メソッドとにある。

日本が西洋音楽を取り入れてもう百年ほど経つのだろうが、日本における音楽の位置づけが成熟したとは言い難い。愛好家は増えたのだが、音楽を志すにあたって、これで身を立てるのだ、成功するのだと言う気概を持つ学生は思いのほか少ないという。仮にその気概があっても、意欲をスキルに転化できる教育が不十分であれば、世界の第一線で活躍できる演奏家を次々と輩出、とはいかない。活躍できるだけの才能と技量に恵まれても、結局それで食べていけなければ、そもそもの意欲が湧いてこない… 話をしていると、構造的な悪循環が見えてくる。

先日のボストン在住の音楽家との話とつき合わせても、日本の音楽業界の将来がこのままでは明るくないと思えてしまう。もちろん、西洋音楽至上主義でよいのか、という重要な問はあるのだが、課題の性質や構造に関して邦楽も大きな違いはないだろう。

だがアメリカでさえ音楽業界は持続可能な構造とはなっていない。金融危機以降、音楽団体への寄付が減ってしまい、ジュリアードやMETですら苦労しているという。オペラなど特にそうだが、コンサートの損益分岐点は会場の収容人数を超えているので、そもそもチケット収入で利益は出ない。そのため寄付に依存しており、今回のように富裕層の余裕資金が吹き飛んでしまうと脆い。

では日本の音楽業界は地盤沈下するだけなのであろうか。音楽がリーダーシップに重要な要素であるならば、リーダーが求められている現在の日本では、寧ろ音楽を盛り立てていき、リーダーシップの鍛錬に取り入れていくことが求められる。また逆に音楽家の中でも眠れるリーダーシップを発揮し、ハイフェッツ教授、ソニーの大賀元会長やFRBのグリーンスパン前議長(どちらも現在の評価はともかく、偉大なリーダーであったことに異論は少ないだろう)のように、音楽家から起業家やリーダーとなる人材が生まれるような社会にすることで、日本のリーダー不在へのひとつの解になるかもしれない。
by flauto_sloan | 2008-11-17 22:57 | Harvardでの学び
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