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MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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IPO/Dudamel - 若き才能
IPO/Dudamel - 若き才能_c0131701_1563337.jpgカーネギー・ホールにて、今最も勢いに乗る指揮者、Gusutavo Dudamelの振るイスラエル・フィルの演奏を聴いてきた。イスラエル・フィルはやや粗さが目立ったが、デュダメルの鮮烈な指揮は情熱に溢れ、会場を興奮させるのに十分なカリスマを発揮していた。

デュダメルとエル・システマ
デュダメルはベネズエラ出身で、先日少し紹介した、ベネズエラのクラシック音楽業界を一新させた組織 "El sistema" が生み出した最高傑作だ。エル・システマは貧困撲滅の手段として、貧しい子供たちに楽器を与え、オーケストラで演奏する経験を持たせよう、というNGO団体だ。ベネズエラでは政府からの資金援助を得て、長年の活動の結果、ベネズエラのユース・オーケストラは世界一の実力を持っている。年末には来日もする。

そのユース・オーケストラの指揮で世界を震撼させたデュダメルは、今や世界中のトップオーケストラに招かれ、大活躍している。1月にはNYPも振るが、それに先んじて聴くことになった。

イスラエル・フィルの演奏
イスラエルだけあってユダヤ人であるバーンスタインの曲をまず取り上げていた。特に二曲目のJubilee Gameはユダヤ人として共感するものが多いのだろう。いつも以上に多いユダヤ人の聴衆は絶賛していた。

メインのチャイコフスキーの4番は、このデュダメルの凄さを上手く伝えてくれた。必ずしも完璧な指揮者ではない。1楽章の音楽の作りこみは緻密ではないし、緩やかな2楽章はあまりメッセージが伝わってこなかった。だが3楽章から4楽章にかけての盛り上げ方は物凄い。3楽章のピチカートはジャズのセッションのような即興性であり、4楽章は極寒のロシアよりも灼熱の南米が思い浮かぶかのような、感情の爆発だった。聴衆を引き込む力もなかなかで、終わった瞬間に「楽しかった!!」と思わせる指揮者だ。

今のままでは、『悲愴』や『マーラー交響曲第9番』といった、感情を押し殺した緊張感で観客を静かに圧倒する音楽は振れないだろう。曲の作りこみ方は、NYPで真価を聴きたいが、まだ成長の余地があるだろう。だがそんな苦手領域を克服するだけの才能に恵まれ、苦手なもの自体がこの指揮者の若さと可能性を感じさせてくれる。

今の人気は実力以上に膨れ上がっているのかも知れないが、中身が詰まっている分バブルではない。デュダメルは今後が楽しみな指揮者だ。
by flauto_sloan | 2008-11-16 23:44 | 音楽・芸術
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