MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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信念 - ボストン日本人研究者交流会
日本人研究者交流会にて、友人でエコノミストのsoheiさんと、パナソニックのDVD技術者の方に発表していただいた。Soheiさんの『信念』を主軸にした協調の経済学という視点、またパナソニック(松下)の哲学に心打たれた、面白い交流会だった。

協調の経済学
Soheiさんは市場メカニズムから金融危機までを、「協調」を軸としたシンプルなモデルで説明してくれた。以下に要旨
世の中の真理を全て知識として取り込むことができないため、人は「信念」を作り出して知識の不完全性を補う。知識を増やすには情報を取り込んで蓄積しなければならないが、こと未来の現象に関しては知識に不確実性が伴う。前例・知識が十分で現象の確率がわかっていればリスクとして管理できるが、そうでない「ナイトの不確実性」が伴うものが現実の経済現象には多い。

不確実な中で行動するためには、信念を基にするしかない。行動の結果を認知することで信念が強化されたり変化したりする。その個々人の行動の総体として結果的に秩序や無秩序が生まれる。その例の一つが市場であり、「この株価はいくらくらいが適正だろう」という信念で売買を行うことで、市場が価格を形成し、結果としての価格を情報として信念を調整する。これが相互作用を起こすことによって意見が自動集約され、市場が変化していく。

一方で市場の変化スピードが、人の信念の調整スピード(認知能力)を上回ってしまった場合、状況を把握しきれずにバブルといった無秩序・パニックが生じる。また取り付け騒ぎのように、フィードバックのメカニズムによっては、予言や予測が自己実現する相互作用もある。

今回の金融危機は、「影の銀行」の取り付け騒ぎだと考えられる。「表の銀行」である商業銀行は規制があるため、大きな儲けはできないが流動性は担保されている。自然生成的な「影の銀行」である投資銀行やヘッジファンドは、CDSやMBSなどといった金融工学を利用した商品を介在して、投資家から資金を集めて個人や企業に融通していた。だが財務省がベア・スターンズを救済しながらリーマン・ブラザーズを潰して一貫性が欠けてしまったことで、信念が揺らぎ、疑心暗鬼である信用不安が引き起こってしまった。破綻は不可避であったとしても、それが危機になってしまったのはリーマン・ショックが引き金だった。

複雑なシステムは危険であり、一度問題が起こると人間の認知の限界を超えてしまい、収拾できなくなってしまう。だが規制はより複雑なシステムを生みかねない。金融機関がシンプルなシステムを構築したくなるようなインセンティブをどう設計するのかが今後の世界の金融当局の課題となろう。
信念による行動とそのフィードバックによる信念の変化、というシンプルなモデルを基に、様々な経済・社会現象を説明していくのが痛快で非常に面白い。

また「表の銀行」「裏の銀行」という表現は非常に事実をうまく単純化していてわかり易い。この裏の銀行という、人の作りし怪物は、好況時には貪欲に金を食い続けて自己肥大化し、ひとたび行き過ぎて破裂すると、ブラックホールのように希望や家や職を吸い込んでいく。人はコントロールできるかどうかで状況に対する安心感が変わるのだが、今はコントロールできない恐ろしさを皆が感じている。その恐れ自体が恐れを生み出しているのに。

Soheiさんは、フランクリン・ルーズベルトの大統領就任演説の名文句
"Only Thing We Have to Fear Is Fear Itself (我々が恐れなければならないのは、恐れそのものだ)" を引用して、希望を背に大統領に就任するオバマ次期大統領の就任演説と、それに続く施策に期待を寄せていた。

日本はこの15年で現状や将来に対する期待値が徐々に下がり、不安に麻痺してしまってきたが、今回の危機はそんな鈍化した痛覚でもはっきりとわかる規模だ。日本人もアメリカ人同様、今非常に恐れを抱いている。政府や海外に対して異常なまでに先鋭化し、スケープゴートを求めて安心しようとしている。残念ながらマスコミその他が強大な負のフィードバック(ある施策に対して、その効果を減殺する作用をもたらす)を生み出しているため、なかなか日本で希望を持つのは難しいだろう。

こういう時こそ、世の中がどうなっているのかをしっかりと国民に説明して解き明かし、恐れを取り除いて行動を取らせるリーダーと、その重要性を理解して余すところなく伝える報道が必要だ。FDRがかつてしたように。


松下哲学
パナソニック技術者の方の発表は、CDやDVDの技術についての話が中心で面白かったのだが、最後に少しだけ触れた松下の哲学が興味深かった。

パナソニックの社員は常に松下の経営哲学を毎日唱えるので、トップから現場まで同じ考え方で貫かれている。例えば、「客の言うことばかり聞いて製品を作るな。客の想像つかないものを見せないといけない」「会社は社会の公器であり、利益ばかり追求するな」といったことを、現場でも考え続けている。ひたすらに利益を追い求める会社にはならないだろうが、従業員は高い志で働いているのが、この会社の凄いところだと感じている。

松下幸之助は、欲望が自己増殖することがわかっていたので、哲学で欲望のみの追求を是としなかったのかもしれない。アメリカ的資本主義的な、定量的なわかり易さは、利益やレバレッジといった数字に落ちてくるものが、捨象された真理の一側面でしかないことを忘れ、それを信念で補っているに過ぎないことを忘れ、欲望の自己増殖に免罪符を与えたのかもしれない。この戦後70年くらいは、人類の歴史におけるバブルでしかないのかも知れない。だがバブルが弾けた先の人類の未来が暗いとは限らない。そこへの希望を与えてくれる大統領であれば、オバマは人類史に残るかも知れない。
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by flauto_sloan | 2008-11-15 19:51 | ボストンでの生活
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