MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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音楽とリーダーシップ
c0131701_13401122.jpg先日コンサートに招待してくれた、Ben ZanderのSIP特別授業 "The Leadership of Art" があった。指揮者が語るリーダーシップ論ということで、個人的にかなり非常にとても物凄く興味を持っていた。期待以上の、洞察に満ちた、元気を与えられる講演だった。

How fascinating!!!
指揮者にとってのリーダーシップとは、人々を動かして(mobilize*1)美しい音とハーモニーを引き出すことであり、演奏者の可能性を目覚めさせることなんだよね。

権威(authority)はもはやリーダーシップとは違うんだ。トスカニーニ*2のような専制君主の時代は終わった。

今求められるリーダーシップは、人々にビジョンを与え、人々を巻き込み、可能性を認識させて引き出すことなのさ。そのためには、結果が出る前に高い評価を惜しみなく与えてあげよう。高い評価を彼らに「取らせる」のではなく、こっちから与えてしまおう。そうして与えてから、人々にその高い評価の理由を自分でつけてもらう。そうして、自分の可能性を目覚めさせるのさ!

人々はいとも簡単に悪循環に陥ってしまう。情熱を持っていても、それが失望に変わり、皮肉屋へと転じてしまう。でもその悪循環は、余計な義務感や自責といったもの以外何も生み出さない。明るいビジョンに目を向けるんだ。僕のオーケストラでは、演奏中失敗したら、明るく大声で両手を挙げて
"How fascinating!!! (なんて素晴らしい!!)"
と叫ばせているんだよ!


また、「ルールその6」と呼んでいるんだけど、何か行き詰ったりいらだったりしている時に
"Don't take yourself so seriously!! (そんなに思いつめるなって。気にするなって!!)"

とお互いに言い合うと、悪循環に陥らないで済むんだ。

こうして、常に明るいビジョンに目を向けさせて、可能性を引き出すのがリーダーであり指揮者の役割なのさ。


全員をクラシック好きに!!
芸術は生存に不可欠じゃないけれど、希望を与えてくれる。クラシック音楽愛好家は人口の3%だというけれど、これを4%にするのが目標ではなく、
100%にするのが目標なんだ!

クラシック音楽は本当は、誰にでも理解でき、感動できるものなので、もしその良さがわかっていないために演奏会に行かない人がいたら、それは僕たち音楽家の責任だ。音楽はただの音のかたまりではなく、作曲家が流れるメロディに乗せたメッセージなんだよ。それを知るだけで、ぐっと楽しくなれる。

c0131701_13404018.jpgここでザンダーは本当の音楽を聴かせてくれた。まず自らピアノを弾いて、音のかたまりとメロディーの違い、ショパンが楽譜に籠めたメッセージを見事に表現すると、その明らかな違いと、美しい「音楽」に、参加者は皆感動していた。
また、ニューイングランド・コンサヴァトリーから連れてきたチェリストの生徒にバッハの無伴奏チェロ組曲を弾かせた。ザンダーのフィードバックと、ユーモア溢れる勇気付けによって、その生徒のチェロの音色と表現が見る間に深まっていく。まさに「可能性」が引き出される瞬間だった。


リーダーシップと音楽
音楽はリーダーシップの実践の場でもある。ザンダーのリーダーシップ論が、チェリストでもあるハイフェッツの論と共通しているものが多いのは、決して偶然ではないだろう。

自分のオーケストラの経験を振り返っても、素晴らしい演奏の時には、個々人の可能性がどんどん引き出され、相乗効果でハーモニーがどんどん豊かになっていった。

そんな成功時はオーケストラが一体になり、周りのあらゆる音が聴こえてくる。響きとメロディーの中での自分の役割、自分の音が他の演奏者や聴衆に与える影響、さらにそれが自分にどう跳ね返ってくるのか、リアルタイムの相互作用が手に取るようにわかる*3。まるで上からオーケストラと聴衆と、音楽の流れを俯瞰するかのようだ。

そこまでのダイナミクスが生じると、指揮者も一人の演奏家でしかない。リーダーは指揮者一人のように見えるが、個々人がリーダーであり、周りの演奏者をmobilizeしている。指揮者の役割は、その高いグループ・ダイナミックスへオーケストラを導いていくことにある。

演奏が終わると、至福にひたれるだけでなく、お客様からの賛辞でさらに嬉しくなる。この経験を一度でもすると、もうオーケストラを続けたくて仕方がなくなってしまう*4

ザンダーは勿論、ハイフェッツのリーダーシップ論や、システム・ダイナミクスを私が何の抵抗もなく受け入れられるのは、この音楽におけるグループ・ダイナミックスとリーダーシップ経験にあるのだろう。


自分の内なるリーダーシップを見つめられ、勇気と楽しさを目一杯にもらった、最高の講演だ。
そして、「全ての人をクラシック好きに」という彼のビジョンを、私は日本に持ち帰ることにする。


*1 この"mobilize"という言葉は、ハイフェッツのリーダーシップ論でも中核をなす非常に重要な言葉なのだが、対応するいい日本語がなかなかない。動員する、と訳されるが、ニュアンス的には
「刺激や鼓舞によって組織の温度を高めることで、周囲の人が励起したり、ブラウン運動が激しくなったりして、自分から創造性を発揮して動き出すようにすること」
といった感覚だろうか
*2 私の大好きな指揮者の一人(1867-1957)。圧倒的なまでに意思が凝縮された解釈と、激しく乾いた、その瞬間にしか存在できないからこその無限の生命力が籠められた響きが素晴らしい。癇癪持ちの専制君主としても有名で、ウィキペディアの逸話も豊富だが、他にも
「演奏会中に聴衆がパンフレットをめくる時に紙がこすれる音が気になったため、絹製のパンフレットを作らせた」といったものもある
*3 周りの音が全部聴こえるから、左後方の2番トランペットのミスもわかってしまう。そんな時、ちょっと目を合わせて「おう、やっちゃったな」と微笑む
*4 そしてそのままコンサート・ミストレスと結婚することになる

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by flauto_sloan | 2008-10-22 22:37 | MITでの学び(MBA)
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