MIT Sloanにて、2007年から2009年までMBA遊学していた、ふらうとです。ボストンとNYでの暮らしや音楽、そして学びを書きつらねています。外資系コンサルティング会社に在籍(社費留学)。趣味はフルート演奏
by flauto_Sloan
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中国への誤解
Sloanで最も人気がある教授の一人である Kristin Forbes教授の久々の授業がSIP期間にあった。昨年はサバティカルで授業がなかっただけあって、非常に楽しみにしていた。

Forbes教授は最年少で大統領経済諮問委員会のメンバーに選ばれた女傑で、若いながら著名で影響力を持っている。ちなみに彼女の教授室のドアには、「クリスティン・フォーブズ」とカタカナで大書されていて、ちょっとびっくりする(小さく漢字でも書かれている)。

大統領へのブリーフィング資料も含まれているというプレゼンテーション資料は、わかりやすくメッセージが明確だ。教授のプレゼンテーションも非常にうまい。さすがの大統領もこれなら理解したことだろう。

中国への誤解
授業の詳細はShintaroがいつもながらに的確に書いているので省略するが、フォーブズ教授は米国(特に議会)が抱いている中国への脅威や非難は的を得ていない、と断じている。

そもそも、中国の経済成長について、変化の絶対値だけ見ると空前の成長のように錯覚するが、GDPが成長期に何倍になったかといった比率を用いて比較すると、日本の高度経済成長期と同じくらい、韓国の奇跡よりはむしろ鈍い。

議員(特に中西部)は米国の雇用が中国に奪われている、と叫ぶが、雇用減少のうちで中国に起因するのはごく一部に過ぎない。むしろ自動化が主要な要因である(これは『ハイ・インパクト』や『フラット化した世界』でも指摘されている大きな労働環境の変化・変質だ)

1兆ドルを越す巨額の外貨準備高も槍玉に上がるが、むしろ問題は米国の低い貯蓄率だ。(米中の経常収支や外貨準備高のデータが示されたとき、隣のアメリカ人が「ああ・・・ 我々は貯金しないと…」と溜息をついていた)

オリンピックを終えて中国は変曲点に差し掛かっている。成長は鈍り、株価は大きく値を下げている*。米国への直接的な短期的影響は、全体として軽微とみられるが、社会福祉でもあるウォルマートの物価の上昇など、一定の影響は出る。だが中国への対応を誤ると、より大きな影響が返ってくる。

今後の米中関係は、選挙の結果と金融危機の影響(責任転嫁をしたい、といった心理的なものを含む)によっては保護貿易政策や国際社会での非難などで悪化しうる。だがむしろ中国を積極的に政治的経済的に巻き込んでいくことが重要だ、と結んだ。


舵取りの難しさ
教授は授業中、しばしば中国の成長を日本や韓国と比較して、「空前絶後」の現象ではないことを強調していた。だからこそ、今の米国の中国への反応を見ると、80年代の対日政策を思い起こす。

今回の金融危機に伴う将来への不安や雇用状況の悪化を受けて、米国社会の不満は高いレベルでくすぶっている。大統領選の行方はまだわからないが、仮にオバマが大統領になったとすると、非常に難しい舵取りを迫られるだろう。

カリスマに寄せる国民の期待は無茶なほどに高く、それを満たせない場合は、問題がオバマ個人の資質に帰せられてしまう可能性がある。特に黒人であることは、オバマへの評価をより厳しくしているだろう。最悪の場合、先日も逮捕者が出たように、暗殺の危険すらありうる。

その危険に直面した時に、ローマ帝国の昔から歴史で繰り返される最も安直な回避策は、外敵を作ることだ。武力衝突の外敵だったイラクはで既に敵はなくなったため、経済衝突の外敵として中国は格好の対象だ。同盟国の日本以上に交渉や圧力が上手くいかないだろうから、国内の不満はますます高まり、外敵作りに拍車がかかりかねない。

オバマには優秀なブレインがついているし、彼の胆力には大いに期待しているから、こんなシナリオは起きないと期待したいが、薄氷を踏むような第一期の舵取りを少し間違えると、たちまち罠に嵌りかねない。


同様のことは中国にも起こりうる。急成長に伴うひずみが顕在化してきており、悪循環が回り始めているかもしれない。すると成長にはブレーキがかかり、これまでは生活水準の向上で気がそらされていた様々な問題(環境問題、格差の拡大、急激な高齢化など)が注目されるようになり、国民の不満は一気に高まりうる。

そこにアメリカが国内問題を逸らすために貿易紛争を持ちかけてきたら、中国がそれを利用するというシナリオがありうる。尤も、米中貿易の重要性と中国のしたたかさを考えたら、中国が米国を外敵化することは考えにくいが。

ただ今後の中国の国政の舵取りも、バランスが非常に難しいものとなろう。4000年の時間軸で考えている彼らは、深く考えてゆっくりと行動する。だがこれだけ変化が激しく早い現在、その巧遅は拙速に如くだろうか。若干の不安を抱えながら、中国の動向と米国の動向を見守ることとしよう。


* 中国の最近の動向はVogel塾の昨年度の取り組みの中でも色々と知ったが、さすがに全体観があってわかりやすい
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by flauto_sloan | 2008-10-21 11:24 | MITでの学び(MBA)
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